マルツTOP > APPLICATION LAB TOPページ おすすめ技術記事アーカイブス > 自動化装置内の電力品質の維持

自動化装置内の電力品質の維持

著者 Lisa Eitel(リサ・アイテル) 氏
Digi-Keyの北米担当編集者 提供
2020-10-20

マルツ掲載日:2021-2-22


 Digi-Key掲載記事「産業用電力システムの設計」で産業用電源の品質問題の詳細について述べたように、ローカルな電力網での変動から生じる問題は6種類ほど(電圧サージ、停電、周波数の不安定性、ノイズなど)あります。電力供給を受ける各自動化装置の内部からも変動が発生することで、さらに問題が複雑になります。

 幸い、一定した電力の供給に関わるこのような問題に対処するためのコンポーネントは豊富にあります。これらの電源やその他のパワー部品は、機械装置に最大限の性能を発揮させ、機械装置がローカルの電力網に悪影響を及ぼすのを防止します。


図1:PULS社が提供するCPシリーズの単相電源は、産業用オートメーションで一般的に使用されているDINレールに取り付けられる。過渡電圧および電力サージに対する高耐性に加え、低電磁放射、DC-OKリレーコンタクト、20%の出力電力リザーブ(本記事で後述)、最小限の突入電流サージなどの特長を備えている。特殊コーティングが施された本電源は、アクティブ力率補正(PFC)機能も実行する。(画像提供: EE World)

 装置内から生じる電力品質の問題には、主にノイズと高調波攪乱という2つの種類があります。

 電力における電気ノイズとは、高周波の電圧変動を指します。高周波数という表現は相対的なものですが、常にシステムのAC周波数よりもかなり高い周波数を示します。時間領域で見ると、AC電流は滑らかな正弦波に見えるはずです。ノイズがあると、この波形がでこぼこして不規則になります。

 機械装置の電源には、使用されている導線の抵抗によって生じるいくらかのノイズが常に存在します。そのようなノイズは熱ノイズと呼ばれ、一般には無視できる変動です。より重要で有害な可能性のあるノイズは、溶接機や電気モータなど、ローカルの電気的負荷によって発生します。

 そのような構成要素とシステムから発生するノイズは定量化が困難な場合が多く、影響を受ける装置の内部部品の過熱や劣化、さらには故障を引き起こす最大のリスクになります。

 電気高調波とは、システムにおけるAC周波数の整数倍の周波数での電圧や電流の変動です。これは、整流器、コンピュータ電源、蛍光灯照明、ある種の可変速電気モータなどの非線形負荷によって生じます。電流の高調波は電圧の高調波よりも大きい傾向があり、実際に後者の原因になる傾向があります。


図2:高調波波形は基本波形の整数倍の周波数をもち、(電力系統において)基本波形と組み合わさって問題の原因となる。高調波は通常、何らかの電気負荷装置からか、接続されている機械装置内で発生する。(画像提供:Design World)

 これらの電気高調波は(熱発生を誘発して)電気モータの効率を大幅に低下させ、寿命を縮める場合があります。また、電気モータの振動とその力学的出力の脈動の原因にもなり、モータに組み込まれているパワー伝達部品、特にシャフト支持用ベアリングの寿命を縮めます。

電力系統の重要パラメータ

 電源には、力率とホールドアップ時間という2つの重要な仕様があります。

 力率とは、ACシステムにおける真の電力と皮相電力の差を表すために使われる無次元の比です。皮相電力は真の電力と無効電力を合わせたものです。そして無効電力は、回路網から引き出されて一時的に蓄えられ、消費されずに返される電力です。これは通常、誘導性負荷や容量性負荷によるもので、電流と電圧の位相のずれを生じさせます。無効電力は分電系統の負荷を増加させ、電力品質を低下させるため、光熱費の増加につながります。

 理想的には、システムの力率が1であること、つまり、システムに無効電力がないことです。力率が0.95未満の設計では、分電系統の負荷が高くなり、無効電力課金が発生する場合があります。


図3:Traco Power社が提供するTML 100Cシリーズの85~100W AC/DC電源モジュール。アクティブ力率補正(PFC)により力率0.95超(230VACの場合)や0.99超(115VACの場合)を実現している。(画像提供: Traco Power)

 ホールドアップ時間とは、停電後に電源がその仕様電圧内で電力を供給し続けられる時間です。無停電電源装置(UPS)や発電機の場合(停電やブラウンアウト時に自動動作を継続させるために使われるバックアップ電源)を考えてみましょう。

 この記事の最後の節でさらに詳述されているとおりに、UPSはかなりの期間にわたって電力を供給する必要があります。しかし、UPSの設計によっては、商用電力の停止からUPSの電力供給開始までに最大25msecの遅延が生じる可能性があります。

 電源ホールドアップ時間があるため、電源は主にコンデンサに蓄えた電力を使用して、このギャップを埋めることができます。実際には、スイッチモード電源はより高電圧のコンデンサを備えているため、リニア電源よりもホールドアップ時間が長い傾向があります。

機械に誘発される電力の問題に対処するその他の機能

 接地、絶縁、フィルタ式パワーコンバータは、高品質電源の基盤です。

接地:適切な接地は、電源の正しい動作に不可欠です。適切な接地によって、基準電圧(これを基に他の電圧が測定される)と電流の戻り経路が得られます。このトピックの詳細は、Digi-Keyの記事「接地故障の検出と保護について知っておくべきこと」をお読みください。

絶縁:非絶縁型電源の方がエネルギー効率が高く、小型にできますが、入出力電圧間を絶縁すると、部品が故障した場合に出力に及ぶ危険なレベルの電圧に対して保護することができます。絶縁は、オペレータを危険な電圧から保護するため、または装置を過渡電圧やうねりから保護するために必要な場合もあります。

絶縁の形態
・部品間の物理的絶縁
・トランスによる誘導カップリング - 電源システムの電圧を変換するパワーコンバータ
・光学カップリング - 電源システムの異種部品間で高レベルの絶縁を実現しつつ信号伝送を行う場合に最適


図4:電源には多くの場合、1)AC電源の電圧または周波数の変換、あるいは2)整流(AC電源のDCへの変換)の機能がある。代表例:このVicor Corpの48V、400W、AC/DCパルス周波数変調(PFM)コンバータフィルタリングと過渡的サージ保護の機能を備えている。

注意事項:VIA(Vicor Integrated Adapter)コンバータは、外部整流化正弦波AC電源からの入力のみを受け入れる。力率は本モジュールで維持。高調波はIEC 61000-3-2に準拠し、内部フィルタリングによりサージおよび電磁干渉(EMI)に関する適用要件に準拠。(画像提供: Vicor Corp.)

電気フィルタとサージ抑制:サージ抑制は、過渡電圧とうねりを除去し、電気装置を過電圧状態の影響から保護します。これに対し、電気フィルタはシステム電圧を平滑化してノイズと高調波を除去します。

 大型航空機(400Hz電源装備)で使われる産業用電源のフィルタついては、digikey.comの記事「400Hz電源の動作」をお読みください。他の電気フィルタで、モータドライブを補完するため、特に使用位置付近に自動取り付けして使われることの多いLCフィルタを考えましょう。

 LCフィルタとは、一種のタンク回路、すなわち、インダクタLとコンデンサCで構成された共振回路(同調回路とも呼ばれる)で、設定周波数で出力を生成します。モータ用のLCフィルタは通常、ドライブの矩形PWM出力電圧を滑らかで残留リップルの小さい正弦波に変換する目的で使われます。利点には、急激な電圧変化、過電圧、過熱、渦電流損の防止によるモータ寿命の延長などがあります。


図5:Schaffner EMC Inc.のLC正弦波フィルタ。モータドライブが取り付け済みのモータコイルに滑らかでピークのない正弦波を効果的に送れるようにする。このフィルタはさらに長いモータケーブルを使用した設置も可能。(画像提供: Schaffner EMC Inc.)

 サージプロテクタは、電流のブロックや短絡-つまり、サージブロックと短絡という処置の組み合わせによって機能を果たします。

ブロックによるサージ保護:電流は、急激な電流変化を弱めるインダクタによってブロックできます。しかし、ほとんどのサージプロテクタは、過電圧発生時には短絡して電流を分電ラインへ戻し、その回路導線の抵抗で電力を消費させます。

短絡によるサージ保護:スパークギャップや放電管、半導体デバイスによって瞬時に短絡されます(電圧が設定レベルを超えた時点でトリガされる)。ごくまれには(大きな、またはきわめて時間の長いサージのとき)サージによってサージプロテクタの電源ラインまたは内部部品が溶融する場合があります。コンデンサも急激な電圧変化を弱めることができます。

 サージプロテクタの重要な仕様には、クランプ電圧、応答時間、定格エネルギーなどがあります。クランプ電圧(最大通過電圧とも呼ばれる)とは、電圧サージプロテクタを通過できる最大電圧です。120Vの機器のクランプ電圧は通常、220Vです。エネルギー定格(通常、単位はジュール)とは、サージプロテクタ内の部品が焼損して壊れるまでに吸収できる最大電力量です。

 サージプロテクタの仕様で重要であるのに見過ごされがちなのが、故障時にどうなるかということです。サージがプロテクタの定格エネルギーを超え、内蔵部品が壊れた場合、そのプロテクタはもはやその後のサージからの保護機能を果たせません。しかし、これで電力が遮断されるわけではありません。

 一部のサージプロテクタ(サーバや他の電子ICメモリを保護するように設計されたものなど)は、故障後も電力を供給し続けます。サージ保護がもう存在しないことを唯一示すのは警告灯の場合もあります。他に、故障時には実際に電力を遮断したり、電力伝送を低減したりするサージプロテクタもあります。

重要なアプリケーションはUPSで発電機を補完する

 バックアップ電源用のUPSや発電機は停電やブラウンアウトの間の継続動作を実現します。UPSはバッテリを使用し、通常、数分から数時間、電力を供給するように設計されています。発電機はエンジンを使用して電力を長時間にわたって発生させ、この時間は使用できる燃料によってしか制限されません。

 UPSは停電に瞬時に応答し、電力供給が途絶えないようにします。これに対して発電機は始動に少なくとも数秒を要します。連続電力が必要なアプリケーションには、発電機にUPSを組み合わせて、発電機が始動する間、電力供給する必要があります。

          
図6:この24VDC、5Aの無停電電源装置(UPS)はDINレールに取り付けられ、全負荷で最大25分間、バックアップ電力を供給する。(画像提供: Phoenix Contact)

 UPSは停電から装置を保護します。オフラインのUPS、あるいは電圧と周波数に依存するUPSは、最もコスト効率が良いですが、2つの大きな短所があります。

・通常の状態では、オフラインUPSは電流をバッテリ経由ではなく直接、出力に通す。UPS回路が停電を検知すると、スイッチがバッテリをインバータ経由で出力に接続する。このため、電力供給が25msec程度、中断する。
・オフラインUPSは、サージやノイズなど他の電力品質の問題に対する保護機能はほとんどない。

 これに対し、ラインインタラクティブUPSや電圧非依存(VI)UPSは、基本動作は電圧や周波数に依存するUPSと同様ですが、追加の電圧安定器を備えており、通常動作時の電力出力品質を高めています。このようなシステムも電力供給中断時に切り換え時間はかかります。しかし通常、これはわずか5msec程度であり、電源のホールドアップ時間内に十分収まります。

 電力供給機能をもう一段高度化して、最高の保護機能を備えたものがオンラインUPSで、電圧と周波数に依存しないUPSとも呼ばれています。UPS内では、負荷装置が主電源に直接接続されず、常にシステムバッテリから電力供給を受け、このバッテリは主電源から常に充電されます。

 主電源のAC電力はトランスでバッテリ電圧に変圧され、DCに整流されるため、バッテリを充電できます。次にバッテリからの電力がインバータでACに変換され、もう一つのトランスで主電源電圧に昇圧されます。このため、電源の電力品質の問題は出力に影響せず、きわめて高い電力品質と保護機能を実現します。ただし、かなりのエネルギー効率が低下し、UPSの初期コストが高くなります。

 最も敏感で重要度の高い負荷装置の場合を除けば、オフラインUPSを十分なホールドアップ時間をもつ電源と組み合わせる方が優れた選択肢です。

結論

 設計における電力品質要件の決定は、商用電源の品質の問題、電気ノイズ、高調波に起因するダウンタイムおよび保守コストの発生を防ぐ第一歩です。これらの要件は、機械の設計および機能に応じて大幅に変わります。

 しかし、これらのパラメータをいったん決定すれば、電源と、フィルタ、サージ抑制、バックアップ電源、電源コンディショニングの仕様を適切に決めることができます。そうして自動化装置の信頼性を大幅に高めることができます。



免責条項:このウェブサイト上で、さまざまな著者および/またはフォーラム参加者によって表明された意見、信念や視点は、Digi-Key Electronicsの意見、信念および視点またはDigi-Key Electronicsの公式な方針を必ずしも反映するものではありません。

 

このページのコンテンツはDigi-Key社より提供されています。
英文でのオリジナルのコンテンツはDigi-Keyサイトでご確認いただけます。
   


Digi-Key社の全製品は 1個からマルツオンラインで購入できます

※製品カテゴリー総一覧はこちら



ODM、OEM、EMSで定期購入や量産をご検討のお客様へ【価格交渉OK】

毎月一定額をご購入予定のお客様や量産部品としてご検討されているお客様には、マルツ特別価格にてDigi-Key社製品を供給いたします。
条件に応じて、マルツオンライン表示価格よりもお安い価格をご提示できる場合がございます。
是非一度、マルツエレックにお見積もりをご用命ください。


ページトップへ