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MRAMでエッジコンピューティングの信頼性と低レイテンシを実現し消費電力を低減する

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード) 氏
Digi-Keyの北米担当編集者 提供
2020-11-05

マルツ掲載日:2021-03-15


 エッジコンピューティングの利用は、産業用IoT(IIoT)、ロボティクス、医療用機器、ウェアラブル、人工知能、自動車、ポータブル機器の設計など、さまざまな用途で広がっています。これに伴い、プログラムの保存やデータバックアップに使うための、高速、低レイテンシ、不揮発性、低電力、低コストのメモリに対するニーズも高まっています。

 メモリには、SRAM、DRAM、フラッシュ、EEPROM(電気的に消去可能なPROM)などの選択肢がありますが、広く使われているこれらのメモリではいずれも前述した特長の1つ以上で妥協する必要があり、それがエッジコンピューティングに理想的とは言えない理由にもなります。

 これらに代わり設計者の注目を引くのが、MRAM(磁気抵抗ランダムアクセスメモリ)です。MRAMデバイスは、その名称が示すように、データを磁気記憶素子に保存し、真のランダムアクセスを可能にしてメモリ内で読み書きをランダムに実行します。

 MRAMは、低レイテンシ、低リーク、高書き込みサイクル数、高度な保持能力を特長とする構造で機能しますが、これらはいずれもエッジコンピューティングにきわめて望ましい特長と言えます。

 この記事では、EEPROM、SRAM、フラッシュといった一般的なメモリ技術とMRAMの性能を簡単に比較します。次に、いくつかのエッジコンピューティング用途にMRAMを使用する利点について検討します。

 そしてRenesas Electronicsが提供する特定のMRAMデバイスを紹介し、MRAMを使用するいくつかのヒントとコツ、そしてエッジコンピューティングの設計を始めるのに便利な評価プラットフォームについて述べます。

メモリ技術の比較

 エッジコンピューティングアプリケーションの設計者には数種類のメモリ技術の選択肢がありますが、それぞれが異なる性能を持つため何かに妥協する必要があります(図1)。DRAMは多くの場合、様々なタイプのプロセッサがソフトウェアを実行する際のワーキングメモリとして機能します。

 DRAMは手ごろな価格で入手でき、速度は(SRAMと比べて)遅く、消費電力が大きく、給電されている間のみデータを保持できます。また、DRAMメモリセルは放射線により破壊される場合があります。

 SRAMは、DRAMに比べてより高速で高価です。プロセッサのキャッシュメモリとして使用される場合が多く、DRAMはメインメモリに使用されます。SRAMはここで述べるメモリのうち最も電力消費が大きく、DRAMと同じく揮発性メモリです。SRAMセルは放射線によって破壊される場合があり、DRAMとSRAMの両方とも高い耐久性を備えています。

 EEPROMは不揮発性メモリで、外部から印加された電圧を使用してデータを消去します。EEPROMの速度は遅く、耐久性は限られ(標準で100万サイクルが上限)、比較的電力を消費します。EEPROMはここで述べるメモリのうち、現在最も使用が少ないメモリ技術です。

 フラッシュはEEPROMから派生したもので、ストレージ容量はかなり大きく読み取り/書き込み速度は多少高速ですが、やはり低速の部類に入ります。フラッシュは安価で、電源オフの状態でも最大10年間はデータが記憶されたままです。

 しかし、フラッシュは他のメモリタイプに対して使用する仕組みが複雑です。データはブロックで読む必要があり、バイトごとに読み取ることはできません。また、上書きする前にセルを消去する必要があります。消去は個々のバイトごとではなく、ブロックごとに行う必要があります。

 MRAMは、真のランダムアクセスメモリと言えるもので、読み書きの両方がメモリ内でランダムに行われます。また、MRAMにはスタンバイ時にゼロリークという特長もあり、1016書き込みサイクルの耐久性と85℃で20年以上のデータ保持能力を備えています。現在は4Mビット~16Mビットの密度範囲で提供されています。

 MRAMはフラッシュ技術と類似しており、SRAM相当の読み取り/書き込みタイミングを備えています(MRAMは永続的なSRAM(P-SRAM)と呼ばれることもあります)。MRAMはその特性により、最小限のレイテンシでデータを保存し読み出す必要がある用途に特に適しています。

 この低レイテンシの特長と低電力、無限の耐久性、スケーラビリティ、不揮発性などの特性を合わせ持つメモリがMRAMです。MRAMはアルファ粒子に対する本質的な耐性によって、定期的に放射線に暴露されるデバイスにも適します。


図1:MRAMはフラッシュやEEPROMのように不揮発性で、SRAM相当の読み取り/書き込みタイミングを備えています。(画像提供:Renesas Electronics)

MRAMの機能の仕組み

 その名称が示すように、MRAM内にあるデータは磁気記憶素子によって保存されています。この素子は、それぞれが磁化を保持する2つの強磁性体プレートから形成されており、これらのプレートは薄い絶縁層で分離されています。この構造は、磁気トンネル接合(MTJ)と呼ばれます。2つのプレートの片方は永久磁石で、製造時に特定の極性に設定されます。もう片方のプレートの磁化はデータ記憶のために変化します。

 Renesas Electronicsは最近、垂直磁気トンネル接合(p-MTJ)に基づく独自のスピン注入トルクMRAM(STT-MRAM)を使用したMRAMデバイスを追加しました。p-MTJには、不変の固定磁気層、誘電体バリア層、可変の強磁性体記憶層が含まれています(図2)。


図2:STT-MRAMの基本セルには、MTJとアクセストランジスタが1つずつ含まれています。(画像提供:Avalanche Technology)

 プログラミング実行時に、記憶層の磁化の方向は、p-MTJ素子を通る電流方向に応じて、平行状態(抵抗が低い状態「0」)から反平行状態(抵抗が高い状態「1」)またはその逆に電気的に切り替わります。これら2つの異なる抵抗状態を、データ記憶とセンシングに利用します。

MRAMのユースケース

 MRAMのユースケースの例には、データロギング、IoTノードのメモリ、エッジコンピューティングデバイス中の機械学習/人工知能、病院のRFIDタグなどがあります。

 データロガーには、長期的なデータ蓄積に適合するために、数Mビットの不揮発性メモリが必要です。通常は電源に電池を使用しますが、電力を環境発電に頼る場合もあるので低電力メモリが必要です。電力損失の場合に、ログデータをいつまでも保持できる必要があります。MRAMは、データロガーの性能要件に適合するメモリです。

 MRAMの永続性と超低エネルギーモードの組み合わせによって、環境発電や極小フォームファクタの電池電源で動作するIoTノードのコードとデータのユニファイドメモリソリューションが可能になります(図3)。

 IoTノードでは、起動時間が重要な考慮点になることが多く、MRAMを使用してコードインプレース構造を実装すると、起動にかかる時間を短縮して全体的な部品コストも削減できます。これはDRAMやSRAMの必要性が低くなるからです。


図3:MRAMのスピード、耐久性、データ保持能力は、MRAMがIoTノードのメモリ要件に適する要因になります。(画像提供:Avalanche Technology)

 MRAMがもたらす永続性によって、機械学習機能を持つ新世代のIoTノードも可能になり、デバイスがウェイクアップするたびに推論アルゴリズムをリロードする必要がなくなります。ローカルの処理には、センサデータの分析、意思決定、さらにケースに応じてノードの再構成が含まれます。

 このローカライズされた情報には、永続的な低電力メモリが必要になります。このデバイスでは、粗いローカルな推論をリアルタイムで実装し、クラウドを使用してより高度な分析を行うことができます。

 MRAMのスピードは、エンタープライズリソースプランニング(ERP)システム、製造実行システム(MES)、監視制御・データ取得(SCADA)システムなどのエッジデバイスへの機械学習の実装に有効です。これらのシステムでは、データを分析して中間パターンを識別し、隣接するドメインと共有します。このエッジアーキテクチャには、処理スピードと永続的なメモリが必要です。

 設計者は、RFID(電波による個体識別)が役立つ医療機器にもMRAMを応用できます。MRAMの低消費電力と放射線に対する耐性は、病院環境での利用に適します。病院で使われるRFIDタグは、在庫管理、患者のケアと安全性保護、医療機器の識別、消耗品の識別と監視など、さまざまな用途に役立っています。

高性能シリアルMRAMメモリ

 産業用制御やオートメーション、医療機器、ウェアラブル、ネットワークシステム、ストレージ/RAID、自動車、ロボティクスなどのエッジコンピューティングシステムの設計者が使用できるメモリに、RenesasのM30082040054X0IWAYがあります(図4)。このメモリは、密度4Mビット~16Mビットの範囲で提供されています。

 RenesasのMRAM技術はフラッシュ技術に類似しており、SRAM相当の読み取り/書き込みタイミングを備えています。データは常に不揮発性で、1016書き込みサイクルの耐久性と+85℃で20年以上のデータ保持能力を備えています。

 M30082040054X0IWAYはシリアルペリフェラルインターフェース(SPI)を備えており、ソフトウェアデバイスドライバは不要です。SPIは同期シリアルインターフェースで、データとクロックに個別のラインを使用し、ホストとスレーブの完全な同期の維持を可能にします。

 クロックにより、データライン上でビットをサンプリングするタイミングをレシーバ側で把握できます。このタイミングは、クロック信号の立ち上がり(低から高)または立ち下がり(高から低)エッジまたは両エッジのいずれかに該当します。


図4:M30082040054X0IWAYでは、ハードウェアベースとソフトウェアベースの両方のデータ保護スキームが可能です。ハードウェア保護にはWP#ピンを使用し、ソフトウェア保護はステータスレジスタの構成ビットで制御します。どちらのスキームでも、レジスタとメモリアレイへの書き込みは禁止されます。(画像提供:Renesas)

 M30082040054X0IWAYはeXecute-In-Place(XIP)をサポートすることで、命令ごとに読み取りや書き込みコマンドを個別にロードせずに、一連の読み取り/書き込み命令を完了できます。このため、XIPモードはコマンドのオーバーヘッドを削減し、ランダム読み取り/書き込みアクセス時間を短縮します。

 M30082040054X0IWAYでは、ハードウェアベースとソフトウェアベースの両方のデータ保護スキームが可能です。ハードウェア保護にはWP#ピンを使用し、ソフトウェア保護はステータスレジスタの構成ビットで制御します。どちらのスキームでも、レジスタとメモリアレイへの書き込みは禁止されます。

 このデバイスには、メインメモリアレイから独立している256バイトの拡張ストレージアレイがあります。このストレージアレイはユーザーによるプログラムが可能で、不注意による書き込みを防ぐために書き込み保護を設定できます。

 さらに、低電力アプリケーションに対応するために、M30082040054X0IWAYには2つの低電力状態としてディープパワーダウンとハイバネートがあります。デバイスがこれら2つのいずれの低電力状態にあっても、データは失われません。また、デバイスのすべての構成も維持されます。

 このデバイスは、小型フットプリントの8パッドDFN(WSON)パッケージと8ピンSOICパッケージで提供されます。これらのパッケージは、類似の低電力揮発性や不揮発性製品と互換性があります。産業用(-40℃~+85℃)やインダストリアルプラス(-0℃~+105℃)の動作温度範囲を持つデバイスとして提供されます。

MRAMの使用

 MRAMでは、他のメモリ技術と比較して全体的なエネルギー消費を大幅に削減できます。ただし、エネルギーが節約される程度は、特定のアプリケーション設計の使用パターンに応じて変わります。他の不揮発性メモリのように、書き込み電流は読み取りまたはスタンバイ電流よりも大幅に高くなります。

 このため、電力を無駄にする余地がない用途では書き込み時間を最小化する必要があり、特にメモリへの頻繁な書き込みが必要な設計ではそれが顕著です。MRAMの書き込み時間が短いほどこの懸念を和らげ、EEPROMやフラッシュなど他の不揮発性メモリを選択する場合に比べてエネルギー消費を削減できます。

 さらにエネルギーを節約するには、パワーゲーティングシステムアーキテクチャを採用しておりメモリをできるだけ頻繁にスタンバイ状態にするMRAMを使用します。MRAMのパワーアップから書き込みまでの時間がより高速であれば、他の不揮発性メモリよりも頻繁にMRAMをスタンバイ状態にできます。

 この場合、MRAMのスタンバイ時ゼロリークも役立ちます。なお、パワーゲーティングが使われている場合、パワーアップに必要なエネルギーをサポートするため、より大きなデカップリングコンデンサが必要になる場合が多い点に注意してください。

MRAM評価ボード

 設計者がM30082040054X0IWAYで作業しやすいように、RenesasはM3016-EVK評価キットを提供しています。このキットには16MビットMRAMが含まれており、ユーザーは広く使われているArduinoボードを使用して対話型のハードウェアソリューションを開発できます(図5)。

 このプラグ&プレイキットにはArduinoホストボードとターミナルエミュレータソフトウェアが含まれており、PCコンピュータのUSBインターフェースと通信します。評価ボードは、UNO R3ヘッダでArduino UNOホストボード上に装着されます。付属のテストプログラムにより、ユーザーはMRAMデバイスの機能をすばやく評価できます。


図5:M3016-EVK評価キットはArduino UNOホストボード上に装着され、MRAM性能の迅速な評価をサポートします。(画像提供:Renesas)

結論

 DRAM、SRAM、フラッシュ、EEPROMなど従来のメモリ技術を使用してエッジコンピューティングデバイスを設計すると、何らかの面で妥協する必要があり性能が制限される原因になります。そこでエッジコンピューティング向けに設計者が目を向けるのが、最近登場したMRAMです。MRAMは真のランダムアクセス機能を備えており、読み取りと書き込みの両方をメモリ内でランダムに実行できます。

 この記事で述べたように、MRAMはエッジコンピューティングの設計者が求めるメモリの条件、たとえばレイテンシがそれほど発生せずデータを保存/取得するデバイスであること、スタンバイ時のゼロリークによって低消費電力であること、1016書き込みサイクルの耐久性と8℃で20年以上のデータ保持能力を持つことなどを満たします。

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