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SiPドローンコントローラを使用し短時間でドローン性能を高めて飛行時間を延ばす方法

著者 Bill Giovino 氏
Digi-Keyの北米担当編集者 提供
2020-10-29

マルツ掲載日:2021-03-08


 上空を飛ぶ電池駆動ドローンが増えるにしたがい、ドローンメーカーには機能や性能を拡充し、同時に飛行時間を延ばすために消費電力を最小化できるように設計するという競争圧力がかかっています。

 設計者は市場の需要を満たすために、より精密で正確な加速度センサやジャイロスコープを機体に搭載し、連動するファームウェアをアップグレードして進化したセンサの利点を引き出そうとしています。ドローンの物理的な能力も荷物や各種機器を搬送/積載できるように拡張されていて、安定性と空中での制動所作を向上させて重量の増加に対応することが求められます。

 設計者にとっての問題は、ドローン本体重量の増加に加えて計算上の要件の増大、消費電力の増大により、所定の電池サイズで可能な飛行時間が短くなることです。また、追加される機能や能力、関連の電子部品などによって、開発時間が長くなりテスト費用もかさみます。

 その解決策は、より高度な統合に見出されます。この記事ではOctavo Systemsが提供しているシステムインパッケージ(SiP)ソリューションを紹介します。これは基本的に小型ドローン用コンピュータです。

 ここでは、この自己完結型ソリューションの機能を活用して、スペースを大幅に節約し、本体重量を減らして飛行時間を延長する方法を示します。同時に、部品点数、在庫、開発時間、テストの費用を削減する方法についても説明します。

ドローン技術

 ドローンの用途は常に拡大し続けており、カメラ付きの民生用小型ドローンを使用した家族写真の撮影や操縦の腕前を競う集いから、宅配便の荷物の配送、牧場での家畜の追跡、農地での作物の監視、環境保護団体のための海岸線の変化の監視、さらには緊急対応者による捜索救助活動に至るまで幅広い分野に及びます。用途を問わず、飛行時間を左右する電池寿命は、ドローンを選ぶ上で最も重要な要素の1つです。

 電池寿命は明らかにドローンの本体重量に関係するので、ドローンには、動力付き飛行の応力と重圧の下でも本体フレームワークを維持できる範囲で、可能な限り軽量な素材が使用されています。この軽量化への注力は、構造的な完全性からドローンを制御する電子部品にまで及びます。

 的確な飛行力学を考慮して、フレームや搭載されている電子回路の重量を均等に分散することで適切にドローンのバランスを取る必要があります。電子部品が小型になるほど、ドローン本体重量のバランスを取りやすくなります。

 重心が機体の物理的中心にあるのが理想的です。ごくわずかでも重量の不均衡があれば、それを補正するためにプロペラの回転速度を調整する必要があります。そのような調整に時間を取られると電力を余分に消費し、貴重な飛行時間が奪われてしまいます。

 民生用や大半の商用ドローンは、Wi-Fi技術を使用して機体制御やデータ転送を行います。ドローンを遠くに飛ばすほど、ドローンと操縦装置をつなぐWi-Fi無線の出力に必要な電力が増大し、電池が消耗するもう1つの要因になります。

ドローン用センサと処理

 ドローンメーカーがシステムの重量とコストの削減を模索する一方で、ユーザーはより多くの機能と高度な性能の追及に余念がなく、ドローンとファームウェアが複雑化する一因になっています。これにより、ドローンに搭載される電子部品の量と重さが増えるとともに、ドローンのバランスにも影響します。

 たとえば、ドローンは通常、さまざまなマイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)や他のセンサを使用して、コースと速度を監視しながら安定した飛行を維持します(図1)。

 ドローンの位置と方向を判断するために全地球測位システム(GPS)モジュールが使用され、ピッチとヨーの測定にはジャイロスコープ、ドローンのアクセラレーションの力と衝撃力の測定には加速度センサがそれぞれ使用されます。

 また、気圧計で大気圧を測定することにより、現在の大気条件に最適なプロペラの回転速度を判定可能にします。気圧が低いとより高速なロータースピードが必要になり、気圧が高いとより低速なスピードが必要になります。さらに、カメラと近接センサによって、障害物を検出し回避できるようになります。また、安全性に配慮して複数の冗長センサを使用する場合もあります。


図1:4プロペラ式の最新型ドローンは各種MEMSセンサ、1台以上のカメラ、マイクロコントローラファームウェア、写真保存用の外部メモリカード、プロペラ用のモータドライバを備えています。(画像提供:Octavo Systems)

 これらの各センサの出力は、ドローンを操作するマイクロコントローラに送られます。マイクロコントローラは、それらのセンサ入力すべてを処理して使用し、プロペラを駆動し多くの電力を必要とするブラシレスDC(BLDC)モータに最も効率的に給電する方法を判定する必要があります。

 しかし、センサ技術は年ごとに向上しており、ドローンメーカーは最も正確で最高精度の最新センサを最新型ドローンに搭載しています。これを行うには、最新センサの先進機能を活用するためにより複雑なファームウェアを利用する必要があります。

 さらに、飛行制御ファームウェアは常に向上しており、特に自律的なドローンでは顕著です。このようなどの改善もファームウェアの量が膨らむ原因になり、データの正確な処理のためにより高い処理能力と各段に大きなメモリが必要になります。

 電子部品が増え機能が拡張されることで、エンジニアは高まる需要に呼応した低電力、小型のソリューションを使うことを迫られ、しかも開発コストとテスト費用は最小限に抑える必要があります。

ドローン用SiPデバイス

 機能拡大に対する解決策は、電子部品のより高度な統合です。これを実現できるように、Octavo Systemsは、ドローンに特化した自己完結型コンピュータシステムをシングルパッケージ化したOSD32MP15xシリーズを開発しました。

 たとえば、OSD32MP157C-512M-BAAは、100を超えるディスクリート部品と個別のダイ部品の組み合わせを18mm×18mmのボールグリッドアレイ(BGA)シングルパッケージに搭載しています(図2)。


図2:Octavo SystemsのOSD32MP157C-512M-BAAは、18mm×18mmのシングルパッケージに100超のディスクリート部品とダイ部品を組み合わせた完全なドローンシステムです。(画像提供:Octavo Systems)

 OSD32MP157C-512M-BAAには、800MHzで動作するArm Cortex-A7コアが2基含まれています(図3)。これは超高性能ドローン用として十分な処理能力を持ち、センサデータのシームレスな処理を実行すると同時に、絶えず変化する正確なパルス幅変調(PWM)信号をBLDCプロペラモータの動力となる4つのドライバに送信することを可能にします。

 それぞれのCortex-A7コアは、33KBのL1命令キャッシュと32KBのL2データキャッシュを内蔵しています。また、これらのコアは256KBのL2キャッシュを共有します。飛行制御ファームウェアは繰り返し使用される場合もあり、このキャッシュ量によってナビゲーションとセンサ融合処理が大幅にスピードアップします。

 そのほかに、第3のプロセッサである209MHz動作のArm Cortex-M4(浮動小数点ユニット(FPU)搭載)もパッケージに含まれており、カメラの管理、電池のモニタリング、Wi-Fi通信制御などの補助的な処理に使用されます。

 3つのeMMC/SDカードインターフェースは、microSDメモリなどの外部フラッシュカードへの接続に使用できます。これはファームウェアをSiPにロードしたり、カメラで撮った写真やビデオ、飛行データの記録、イベントログ、MEMSセンサログなどを保存したりするのに便利です。

 プロセッサコア用の他のメモリには、256KBのシステムRAMと384KBのマイクロコントローラRAMが含まれます。さらに4KBの電池バックアップ用RAMと3KBのワンタイムプログラマブル(OTP)メモリもあり、ドローンのシリアル番号やオプションパッケージなどのデバイスのカスタマイズに使用できます。


図3:Octavo SystemsのOSD32MP157C-512Mは高度に統合されたコンピュータをシングルデバイスに実装しており、高性能ドローンシステムに適しています。(画像提供:Octavo Systems)

 外部フラッシュプログラムメモリインターフェースには、2つのQSPIインターフェースや8ビットエラー訂正コード(ECC)をサポートする16ビット外部NANDフラッシュインターフェースが含まれています。これにより、外部フラッシュメモリに簡単にアクセスできるとともに、メモリの破損や改ざんを防止できます。

 2つのUSB2.0高速インターフェースをデバイス構成とデバッグ用に、そして追加のデータストレージが必要な場合には外部USBフラッシュメモリ用にも使用できます。

 512MBの高速DDR3L DRAMは、オンボードCortexコア用のプログラムメモリとして使用されます。このDRAMは、ブート時にいずれかの外部フラッシュメモリインターフェースからロードできます。

 これにより、高性能フライトデータファームウェアに十分なプログラムメモリを確保できます。プログラムメモリはどの外部メモリインターフェースからでも実行できますが、ファームウェアは常にDRAMから実行すると実行速度が向上します。

 4KBのEEPROMは、センサのキャリブレーションデータ、飛行制御定数、飛行ログデータの保存に使用できます。メモリ保護機能により、保護付きEEPROMへの不注意な書き込みを防止できます。

 複数のセキュリティ機能によって、システムの安全性が確実に維持されます。Arm TrustZoneモジュールをAES-256/SHA-256暗号化サポートとともに利用することで、更新中のファームウェアの整合性が保証され、外部フラッシュカードのデータを暗号化することもできます。

 OSD32MP157C-512Mは、ファームウェアセキュリティのためのセキュアブート、およびドローンのタイムベースの改ざんを防ぐセキュアなリアルタイムクロック(RTC)をサポートします。

 広範なシリアルポートには、6つのSPI、6つのI2C、4つのUART、およびMEMSセンサとGPSモジュールに接続可能な4つのUSARTインターフェースが含まれます。2つの独立した22チャンネル、16ビットA/Dコンバータ(ADC)により、サーミスタや風速センサなどのアナログセンサとのやり取りが可能になり、電流センシングと閉ループモータ制御も実行できます。

 3つのI2Sインターフェースでは、スピーカやブザーなどのオーディオ機器とやり取りできます。またカメラインターフェースによって、大半のRGBカメラモジュールと簡単に接続できます。

 OSD32MP157C-512Mにはシステムに必要なすべてのディスクリート部品も統合されており、抵抗、コンデンサ、インダクタ、フェライトビーズなどが含まれます。これにより、ドローンシステム構築に使用する外付けディスクリート部品が最小限の個数で済みます。

 PWMモータ制御用に、OSD32MP157C-512Mには2つの高度なモータ制御用16ビットタイマ、15の16ビットタイマ、2つの32ビットタイマが含まれています。これにより、BLDCプロペラモータを高精度で制御し、さらにカメラの位置決めモータやロボットアームなどのアクチュエータを制御するのに十分なPWM信号を確保できます。

OSD32MP15xの給電

 OSD32MP157C-512Mは2.8V~5.5Vの電源を1つだけ必要とするので、標準の3.7Vリチウムイオン電池を使うのに適しています。内蔵の電源管理チップは、すべての個別の内部部品に必要な電圧を提供します。

 Cortex-A7コアとCortex-M4の両方が最大クロック速度で動作し、周辺機器すべてが動作している状態で、OSD32MP157C-512Mの最大消費電流は2Aです。高度な統合と多くの操作オプションがあることから、標準的な消費電流の状況を見積もることは現実的でなく、特定の用途でどの程度電流を消費するかを判断することは開発者に託されます。

 OSD32MP157C-512Mの消費電力は、ディスクリート部品を使用して回路基板上に実装した同様の機能に比べて低くなっています。これは主に、パッケージ化された複数の部品ではなく高密度パッケージのSiPのシングルダイを使用するとリーク電流が劇的に減少し、PC基板のトレース抵抗により失われる電力も減少するということに関係します。

 OSD32MP15xシリーズの静電気放電(ESD)定格は、±1000V人体モデル(HBM)と±500V帯電デバイスモデル(CDM)です。このため、デバイスの取り扱いには十分注意する必要があります。ボールグリッドの接点には絶対指で触れないようにし、デバイスは、必要な場合に限り周縁部分にのみ触れるようにすることを強くお勧めします。

 OSD32MP15xシリーズのSiPデバイスは湿気にも敏感です。ドローンの電子部品は密閉することが推奨されますが、それはドローンの電子部品全般にあてはまります。電子部品が高湿度、水蒸気、雲、雨などに触れることも考えられるからです。

 より高性能なドローン向けに、Octavo SystemsはOSD3358-1G-ISM SiPデバイスを提供しています。このデバイスはOSD32MP157と同様の機能を発揮しますが、1GBのDRAMを搭載した1GHz動作のより強力なデュアルCortex-A8を21mm×21mmのBGAパッケージに備えています。2つのCortex-A8コアは高性能であるため、追加のCortex-M4プロセッサは含まれていません。

Octavo SiPの開発

 コード開発用に、Octavoはフレキシブルなプロトタイピングプラットフォームボード、OSD32MP1-BRKを提供しています(図4)。このボードには、OSD32MP157C-512M SiPと拡張ヘッダが含まれており、106のデジタルI/Oと外部ペリフェラル信号への接続が可能です。


図4:Octavo OSD32MP1-BRKは、OSD32MP15xシリーズSiPドローンデバイス向けのフレキシブルなプロトタイピングプラットフォームです。microSDカードスロットと開発/デバッグ用マイクロUSBポートを備えています。(画像提供:Octavo Systems)

 microSDカードスロットにより、この開発ボードで外部フラッシュプログラムメモリをOSD32MP517-512MのDRAMにロードできます。マイクロUSBポートは、開発およびファームウェアのデバッグに使用され、ボードへの給電も行います。またブートモードスイッチを使用して、デバイスをmicroSDカードから起動するか、または拡張ヘッダで利用可能な外部メモリインターフェースから起動するかを決定できます。

結論

 ドローンメーカーがシステムの機能を強化し続けるにしたがい、開発者はそれらの機能を実現するとともに、消費電力とコストを最小限に抑えてエンドユーザーに最高の飛行操縦体験を提供するという課題の解決をますます迫られています。

 この記事で述べたように、シングルデバイスの高性能SiPドローン用コンピュータによって、きわめて高度な統合が可能になります。これにより設計プロセスが簡素化しながら、ドローンをさらに軽量化し、機体のバランスも取りやすくなり、消費電流の低減や飛行時間の延長が実現されます。これらは、エンドユーザーが重視する高い付加価値でもあります。



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