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媒体分離型圧力センサの使用で産業用プロセスの信頼性と精度を改善

Digi-Keyの北米担当編集者 提供
2020-10-01

マルツ掲載日:2021-2-1


 暖房、換気、空調、冷却(HVAC/R)など、産業用や商用の閉ループプロセスの設計では、制御の強化とプロセス性能を改善するために電気機械式圧力トランスデューサが使用されています。問題は、これらのシステムで使用される液体や気体が、システムが動作する広範囲の温度と圧力によって圧力トランスデューサの材料を劣化させて、センサの完全性を損なう漏れの原因になることです。

 環境上の課題に対応しつつ、アプリケーションに求められる精度と信頼性を提供する代替技術が必要とされています。

 この記事では、まず歪ゲージ式圧力トランスデューサの原理を説明し、Honeywellの媒体分離型圧力(MIP、Media-Isolated Pressure)トランスデューサを紹介します。これらはステンレス鋼製で、一般的なセンサの弱点になりやすいOリングと接着剤による密閉ではなく、ハーメチック溶接設計である点を特長としています。

 続いて、測定誤差の原因と最小化の方法について説明し、このトランスデューサを商用冷却システムに応用してプロセス効率を改善する方法を実証します。

電気機械式圧力トランスデューサの原理

 最近の圧力トランスデューサは電気的出力で、変動しやすい旧来のリンク機構とダイヤルは使用されていません。現在の電気機械式デバイスの主な利点は、信頼性と精度、そして遠隔監視が可能であることです。

 それらの主要な測定技術では、圧電材料か歪ゲージが使用されています。圧電式の圧力トランスデューサが適しているのは動的圧力測定だけですが、歪ゲージ式の場合は動的圧力測定と静的圧力測定のどちらにも使用できます。この記事では、後者に焦点を合わせます。

 歪ゲージは、歪が発生すると抵抗が変化する電気回路で、歪とは、材料の無荷重状態での長さに対する荷重時の長さの比(ε)です。歪ゲージは通常、歪に対する感度の尺度である「ゲージ率(GF)」で分類されます。GFとは、言い換えれば、わずかな長さの変化(歪)に対する電気抵抗のわずかな変化の比です。

 圧力トランスデューサを使用する場合は、加圧されているシステムに直接挿入し、システム内の液体や気体がトランスデューサのポートに侵入してダイアフラムを変位させます。歪ゲージは、適切な接着剤を使用してこのダイアフラムの上側に取り付けます(図1)。


図1:圧力トランスデューサでの使用に適したダイアフラム取り付け式歪ゲージ。この例での歪ゲージの実径は6.35mm。(画像提供:Micro Measurements)

 超高圧下でも歪ゲージ長の変化は、ほとんどの場合、わずか数mε(ミリストレイン)で、これによる抵抗の変化もきわめて小さなものです。たとえば、試験片に350mεの歪が発生するとしましょう。この負荷状態で、GFが2の歪ゲージの電気抵抗の変化は、2(350×10-6)=0.07%です。350Ωの歪ゲージの場合、抵抗の変化はわずか0.245Ωです。

歪ゲージによる測定方法

 このような小さな抵抗変化をノイズの影響を最小にして精密測定するために、この圧力トランスデューサの歪ゲージは、ホイートストンブリッジの一辺に組み込まれています。ホイートストンブリッジとは、4つの抵抗辺で構成されるネットワークで、励起電圧Eを印加して使用します(図2)。


図2:このホイートストンブリッジ回路図で、歪ゲージは一辺に組み込まれている。RGは歪ゲージの抵抗、RL1とRL2は歪ゲージのリード線の抵抗。抵抗器R2、R3、R4の値は一定で既知。eoは出力電圧、Eは励起電圧。(画像提供:Micro Measurements)

 ホイートストンブリッジは、1つの分圧回路を構成するRG(リード線の抵抗RL1とRL2は無視できると仮定)およびR4と、もう1つの分圧回路を構成するR2およびR3からなる、2つの並列分圧回路と電気的に等価です。出力eoは、2つの分圧回路の中間ノード間で測定され、次式で求められます。

      (式1)

 式1から、RG/R4 = R3/R2のときに出力電圧eoがゼロになることがわかり、この状態をブリッジが平衡であると呼びます。歪ゲージの抵抗が変化すると、ブリッジが平衡状態でなくなり、歪に比例した非零のeoが発生します。

 圧力トランスデューサの場合、ダイアフラム取り付け式歪ゲージからの出力電圧は、圧力範囲全体にわたって供給(励起)電圧Eに対して「レシオメトリック(直線性の高い比例)」であると言われます。

温度補償

 歪ゲージを使用する場合の設計上の課題は、温度の影響に対する感受性です。温度変動によりオフセット誤差およびスパン誤差が生じ、ヒステリシスが増加する場合があります。

 歪ゲージは励起電圧Eによって加熱されますが、これはEを低く保てばかなり軽減できます。その反面、システムの感度が低下しますが、ホイートストンブリッジからの出力電圧eoは、必要ならば増幅できます。

 しかし、重畳ノイズの増幅防止に特別な対処が必要です。ひとつの対策として、電圧変化を周波数変化に変換する「キャリヤ周波数」アンプを使用した狭帯域幅出力によりノイズを抑え、帯域外の電磁干渉(EMI)を低減する方法があります。

 第2の熱の発生源は、ダイアフラムと圧力トランスデューサ本体です。高温によってダイアフラムが膨張し、歪ゲージに直接の圧力によらない液体や気体からの歪が生じます。

 こうした影響を軽減するため、最近の歪ゲージには温度補償対策が施されています。歪ゲージは通常、銅55%、ニッケル45%の合金で製造されています。これは、温度による歪を決める熱膨張率がきわめて小さい材料です。

 さらに、歪ゲージとそれを取り付けるダイアフラムの材料のそれぞれの熱膨張率を慎重に一致させると、ある程度の「自己温度補償」を実現でき、温度による歪をわずか数μm/m/°Cに抑えられます。

 温度による誤差のもうひとつの原因は、歪ゲージの電圧信号を伝えるリード線です。上の図2に示したブリッジの特性に関する最初の説明では、これらのリード線抵抗(RL1とRL2)は無視できると仮定しました。しかしリード線が銅製の場合は、わずか10°Cの温度上昇でリード線から直接数百µε相当のオフセットがブリッジに発生する場合があります。このオフセットを防止する一般的な手法は、3線式ブリッジを使うことです(図3)。


図3:このホイートストンブリッジ回路図では、ブリッジの負出力電気ノードが、R4の上からRL2の端に接続している歪ゲージの下側へ移動している。リード線RL1とRL2が同じ抵抗を形成し、ブリッジは平衡状態になる。リード線RL3は、電圧検出線のみで、ブリッジの平衡状態には影響しない。(画像提供:Micro Measurements)

 図3では、ブリッジの負出力電気ノードが、R4の上からRL2の端に接続している歪ゲージの下側に移動していることがわかります。リード線RL1と歪ゲージ(RG)が一辺を構成し、RL2と抵抗器R4が隣接する辺を構成しています。

 リード線RL1とRL2の抵抗値が等しい場合、ブリッジの2辺の抵抗が等しくなり、ブリッジが平衡状態になります。リード線RL3は電圧検出線のみです。ブリッジの4辺のどれとも直列ではなく、ブリッジの平衡状態に影響しません。

 RL1とRL2がともに同一の温度変動を受けた場合、ブリッジは平衡状態を保ちます。また、歪ゲージのリード線と直列なのは1本のリード線だけであるため、リード線によって誘起される温度感作は2線式構成に比べて半減します。

 圧力トランスデューサの出力には、温度の影響に加えて、他にも誤差要因があります。これらの誤差要因については「理想伝達関数」が基準に取られる場合が多いです。これは温度に依存しない直線で、動作圧力範囲で理想フルスケールスパン(FSS)に等しい傾きを持ち、理想オフセットを通ります。このオフセットは基準圧力を加えたときに得られる出力信号で、FSSは動作圧力範囲の上限および下限で測定された出力信号の差です(図4)。


図4:圧力トランスデューサの理想伝達関数は温度に依存しない直線で、動作圧力範囲で理想FSSに等しい傾きを持ち、理想オフセットを通る。(画像提供: Honeywell)

 低品質の圧力トランスデューサは、出荷時に比較的大きなオフセットとFSS誤差を持っている場合があります。オフセット誤差は理想オフセットからの最大圧力偏差であるのに対し、FSS誤差は、理想伝達関数から求められる理想(またはターゲット)FSSに対する、基準温度で測定されたFSSの最大偏差です。

 さらに圧力トランスデューサ自体の精度による誤差もあり、これは圧力の非直線性、圧力ヒステリシス、非再現性による場合があります。熱に誘起される誤差、トランスデューサの不正確さ、オフセット誤差とFSS誤差の組み合わせによって、圧力トランスデューサの全誤差帯域(TEB)が決まります。TEBは、補償温度および圧力範囲全体にわたる理想伝達関数からの出力の最大偏差です(図5)。


図5:圧力トランスデューサの誤差要因を総合したTEB。(画像提供:Honeywell)

ヘビーデューティ圧力トランスデューサ

 産業用に使用される圧力トランスデューサは、腐食性の液体や気体、大きな温度変動に曝されます。たとえば、HVAC/Rで使用されるトランスデューサは、ブタン、プロパン、アンモニア、CO2、グリコールと水などの冷媒、あるいはR134A、R407C、R410A、R448A、R32、R1234ze、R1234yfなどの多様な合成ヒドロフルオロカーボン冷媒に曝されます。また、産業用HVAC/Rシステムにおける温度は、産業用温度範囲の-40~+85℃、あるいはそれ以上にわたります。

 多くのローレンジまたはミッドレンジの圧力トランスデューサは、真鍮などの合金から製造され、Oリングと接着剤を使用してセンサの電子回路をダイアフラムに触れる流体や気体から遮断しています。腐食性物質とともに使用すると、この密閉部品が弱点となり、漏れが発生する場合があります。

 このような漏れは当初は検知されない場合もあり、測定値の誤りやシステム制御の不良につながります。電子回路が腐食性の流体または気体に曝され、最終的には故障を引き起こします。

 これらの潜在的な故障モードを避けるには、Honeywellが提供するMIPシリーズの圧力トランスデューサが使用できます。これらのヘビーデューティ媒体分離型圧力トランスデューサは、内部の密閉にOリングと接着剤を使用していません。

 トランスデューサはステンレス鋼から製造され、Oリングによる密閉ではなくハーメチック溶接設計を特長としています。この設計により、MIPセンサは温度範囲-40~125℃、圧力範囲100kPa~6MPaで、腐食性の強い流体、水、気体などの幅広い媒体に対応できます(図6)。


図6:HoneywellのMIPシリーズ 圧力トランスデューサはステンレス鋼製で密閉の必要のないハーメチック溶接設計。この設計により、本センサは腐食性の強い流体、水、気体などの幅広い媒体に対応可能。(画像提供:Honeywell)

 MIPシリーズは5V電源で動作し、0.5~4.5VDCの範囲でレシオメトリック出力を実現します。本圧力トランスデューサの全温度範囲におけるTEBは1MPa以下の圧力で±1.0%、1MPa超の圧力で0.75%です。また、精度は±0.15% FSS(最良適合直線(BFSL))(図7)で、応答時間は1ms、定格破裂圧力は20MPa超です。


図7:MIPシリーズは5V電源で動作し、0.5~4.5VDCの範囲でレシオメトリック出力を提供。本圧力トランスデューサの全温度範囲におけるTEBは、1MPa以下の圧力で±1.0%、1MPa超の圧力で0.75%(画像提供:Honeywell)

 さらに本シリーズは、±40VDC過電圧保護と電気的故障発生時のセンサ出力診断の機能を備えています(表1)。


表1:MIPシリーズ 圧力トランスデューサの動作特性。(画像提供:Honeywell)

HVAC用の圧力トランスデューサ

 圧力トランスデューサは、空調システムなどの用途で精密制御により効率を最大化しつつエネルギー消費を低減する重要な役割を担っています。たとえば、産業用冷却装置に使用されるHVAC/Rサイクルを考えてみましょう(図8)。


図8:HVAC/Rサイクルを示す図圧縮機と蒸発器の出口にあるヘビーデューティ圧力トランスデューサで冷媒圧力を監視することで、冷媒の最適な相変化を実現し、それによるサイクルの効率を決定する(画像提供:Honeywell)

 圧縮機段では、蒸発器からの低圧蒸気が圧縮され(加熱を引き起こし)、コンデンサに送り出されます。コンデンサでは、高温蒸気が潜熱を空気中の放出し、凝結して高温液体になります。そして、ドライヤが冷媒から水を除去します。

 次に、計量装置ではコンデンサからの高音液体が流量制限路に出されて減圧し、冷媒に熱を放出させます。次に、蒸発器内部でこの低温液体がコンデンサからの還気流から熱を吸収して蒸気に変化します。この蒸気は、圧縮機に達するまで熱を吸収し続け、そこからはサイクルの繰り返しになります。蒸発器からの冷気は、冷却容器の温度を下げるために使用されます。

 冷却サイクルは、冷媒が液体から蒸気に変化し、また元に戻るときに大きな潜在エネルギーを吸収または放出することで機能します。効率良く効果的に動作させるには、システムの各種部品内の圧力を注意深く監視し、制御する必要があります。これは特に、冷媒が液体から蒸気へ、または蒸気から液体への相変化をする場合に当てはまります。

 たとえば、低圧下では他の場合より低温で冷媒が液体から気体に変化し、潜在エネルギー(熱)を吸収します。高圧下では、冷媒気体が他の場合より高温で液体に変化し、潜在エネルギー(熱)を放出します。

 圧縮機と蒸発器の出口圧力を監視することで、サイクル中の低圧部品や後発部品内のフローを(したがって圧力を)精密制御するように圧縮機や計器を設定でき、その結果冷媒の相変化温度を変化させてシステム効率を最大化します。

結論

 歪ゲージ式圧力トランスデューサは、産業用プロセスの圧力測定の優れたソリューションですが、極端な環境に曝されやすいシステムの設計者はOリングと接着剤を使用したモデルの限界を認識する必要があります。

 このような極端な環境に遭遇する可能性のあるアプリケーション向けに設計されたHoneywellのMIPシリーズの圧力トランスデューサは、ステンレス製でハーメチック溶接設計です。

 この構造により、MIPセンサは幅広い産業用液体や気体に対応でき、高温高圧下でも長寿命です。Honeywellの圧力トランスデューサは、高精度、高速応答で、優れた長期安定性、卓越した電磁干渉(EMI)耐性を備えています。



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