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ワイドバンドギャップ半導体とデジタル制御による効果的な力率補正の設計

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード) 氏
Digi-Keyの北米担当編集者 提供
2020-10-14

マルツ掲載日:2021-2-15


 力率補正(PFC)は、AC/DC電源、バッテリチャージャ、バッテリベースのエネルギー貯蔵システム、モータドライブ、無停電電源装置など、AC電源を電力とする装置の効率を最大化するために必要です。その重要性は、特定タイプの電子機器について最小の力率(PF)レベルを指定する規制があることにも表れています。

 設計者は、フォームファクタの小型化が追及される中で総合的な性能向上の圧力を継続的に受けながら、さらにこのような規制に適合するために、デジタル制御技術やシリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などのワイドバンドギャップ半導体を駆使したアクティブなPFC設計に目を向けています。

 この記事では、IEEEとIECに応じて異なる定義や関連する規格など、力率の概念と定義について確認します。さらに、STMicroelectronics、Transphorm、Microchip Technology、Infineon TechnologiesといったベンダーによるPFCソリューションを紹介します。

 設計者はこれらのソリューションを利用して、評価ボードを活用するなど、ワイドバンドギャップ半導体とデジタル制御を駆使したPFCを実装することができます。

力率補正(PFC)とは何か、それが必要な理由とは

 力率は、システムでの無効電力レベルの指標になります。無効電力は真の電力ではありませんが、位相差をともなう電圧と電流の影響度を表します(図1)。位相差があることによって、効率的な電力利用が難しくなりますが、AC主電源ラインに対する負荷となることに変わりありません。

 システムにおける無効電力の量は、エネルギー伝達がどの程度非効率的かを表す1つの指標になります。アクティブPFCでは、パワーエレクトロニクスを使用することで、負荷によって消費される電流波形の位相や形状を変化させ、力率を改善します。PFCを利用することによって、システム全体の効率性が向上します。


図1:力率はθのコサインとして定義され、負荷により吸収される有効電力と回路を流れる皮相電力の比率を表します。この2つの差は、無効電力に起因します。無効電力がゼロに近づくと負荷はより純粋な抵抗になり、皮相電力と有効電力が等しくなって、力率が1.0になります。(画像提供:Wikipedia)

 力率は、線形負荷または非線形負荷で悪くなります。非線形負荷は、電圧波形や電流波形、またはその両方を歪ませます。非線形負荷が関与する場合は、歪み力率と呼ばれます。

 線形負荷は、入力波形の形を歪ませることはありませんが、そのインダクタンスや静電容量によって電圧と電流の間の相対的なタイミング(位相)を変化させる原因になります(図2)。主に抵抗性の負荷をともなう電気回路(白熱ランプや加熱エレメントなど)では力率がほぼ1.0ですが、誘導性負荷または容量性負荷を含む回路(スイッチモードパワーコンバータ、電気モータ、ソレノイドバルブ、変圧器、ランプバラストなど)では力率が1.0を顕著に下回る場合があります。


図2:線形負荷からの遅れ力率(電流が電圧に遅れている)0.71を伴うAC電圧や電流から算出された瞬時電力と平均電力。(画像提供:CUI, Inc.)

 ほとんどの電子負荷は非線形です。非線形負荷には、たとえばスイッチモードパワーコンバータや、蛍光灯、電気溶接機、アーク炉などのアーク放電装置があります。これらのシステムにおける電流はスイッチング動作によって遮断されるため、電流には電源システム周波数の倍数になる周波数成分が含まれています。歪み力率は、負荷電流の高調波歪みによって、負荷に転送される平均電力がどの程度減少するかの指標になります。


図3:非線形負荷であるこのコンピュータ電源では、正弦波電圧(黄色)と非正弦波電流(青色)が0.75の歪み力率をもたらします。(画像提供:Wikipedia)

遅れ力率と進み力率の違い

 遅れ力率は電流が電圧より遅れている(後になる)ことを意味し、進み力率は電流が電圧より進んでいる(前になる)ことを意味します。誘導性負荷(誘導モータ、コイル、一部のランプなど)では、電流が電圧の後になる遅れ力率になります。容量性負荷(同期コンデンサ、コンデンサバンク、電子パワーコンバータなど)では、電流が電圧の前になる進み力率になります。

 遅れと進みの区別は、プラスやマイナスの値には相当しません。力率値の前にあるプラス/マイナス符号は、IEEEとIECのいずれの規格を使用するかに応じて決まります。

力率およびIEEEとIECの比較

 図4のグラフは、IEEEとIECの両規格について、電力のキロワット(kW)、無効電力(var)、力率、誘導性負荷または容量性負荷の相関を示しています。それぞれの規格で、力率の分類に異なる指標を使用しています。


図4:IECでは(左)、力率の符号は有効電力フローの方向にのみ依存し、負荷が誘導性か容量性かには依存しません。IEEEでは(右)、力率の符号は負荷の性質(容量性か誘導性か)にのみ依存します。この場合、有効電力フローの向きには依存しません。(画像提供:Schneider Electric)

 IEC規格では(図4の左側)、力率の符号は有効電力フローの方向にのみ依存し、負荷が誘導性か容量性かには依存しません。IEEE規格では(図4の右側)、力率の符号は負荷の性質(容量性や誘導性)にのみ依存します。この場合、有効電力フローの向きには依存しません。誘導性負荷の場合、力率はマイナスになります。容量性負荷の場合、力率はプラスです。

力率規格

 EUなどの規制当局は、力率改善のために高調波制限を設けています。現行のEU規格EN61000-3-2(IEC 61000-3-2に基づく)に適合するには、出力電力が75Wを超えるすべてのスイッチモード電源装置にPFCを含める必要があります。

 EnergyStarによる80PLUSの電源認証には、定格出力電力100%で力率が0.9以上であることとアクティブなPFCが必要です。本記事執筆時点での最新版IEC規格は、次のとおりです。IEC 61000-3-2:2018、「電磁両立性(EMC)-パート3-2:限度値-高調波電流エミッションの限度値(機器の入力電流、相当たり16A以下)。

 非力率補正スイッチモードパワーコンバータは、現行のPFC規格に適合しません。力率に影響する考慮点の1つは、使用するAC入力のタイプが単相か3相かです。単相非力率補正スイッチング電源の力率は、標準で約0.65~0.75です(上記PF符号のIEEE規則を使用)。

 これは、ほとんどの電源ユニットが整流器/コンデンサのフロントエンドを使用してDCバス電圧を生成しているためです。この構成では、各ラインサイクルのピークでのみ電流を消費し、狭い高パルスの電流が生成され、力率は悪くなります(上図3)。

 3相非力率補正スイッチモードパワーコンバータでは力率がより高く、多くの場合0.85に迫ります(ここでも力率符号のIEEE規則を使用)。これは、DCバス電圧の生成に整流器/コンデンサを使用しても、3相あるので総合的な力率の改善が増すためです。しかし、単相または3相いずれのスイッチモードパワーコンバータも、アクティブ力率補正回路を使わないと現行の力率規制に適合することはできません。

ワイドバンドギャップ(WBG)半導体とデジタル制御を使用したアクティブPFCの設計

 デジタル制御技術やGaN、SiCなどのワイドバンドギャップパワー半導体を使用することで、設計者はアクティブPFC回路の新たなオプションを得ることができます。これにより、アナログ制御に基づくアクティブPFC設計またはパッシブPFC設計よりも高い効率性と電力密度を実現できます。

 設計者は、アナログコントローラを高度なデジタル制御技術に置き換えること、またはアナログ制御をマイクロコントローラなどの付加的なデジタル制御エレメントで補完することによって、PFCの性能を最大限に引き出すことができます。また、WBG半導体を使用してPFCの性能を強化できる場合もあります。

 コンポーネントの低価格化により、2種類のPFCメソッド、すなわちインターリーブPFCとブリッジレスPFCの実装が加速しています。それぞれのアプローチがもたらす利点は異なります。

・インターリーブPFCの利点:
  効率性の向上
  熱分布の改善
  PFC段のrms電流の削減
  モジュール性
・ブリッジレスPFCの利点:
  効率性の向上
  入力整流における損失の半減
  熱分布の改善
  より高い電力密度

アナログ制御とデジタル制御を組み合わせた3チャンネルインターリーブPFCコントローラ

 STMicroelectronicsのSTNRGPF01コントローラは構成可能なASICで、デジタルとアナログの制御を組み合わせており、インターリーブPFCで最大3つのチャンネルを駆動できます(図5)。このデバイスは、平均電流モード制御によって固定周波数での連続伝導モード(CCM)で機能し、混合信号(アナログ/デジタル)制御を実装しています。

 アナログ内部電流ループはハードウェアによって実行され、サイクルごとの安定化が保証されます。外部電圧ループは、高速ダイナミック応答を伴うデジタル比例積分(PI)コントローラによって実行されます。


図5:STNRGPF01の機能ブロック図。3相インターリーブPFCアプリケーションの内部アナログ制御部(赤)と外部デジタル制御部(緑)が示されています。(画像提供:STMicroelectronics)

 STNRGPF01では、フレキシブルな位相シェディング方式を実装していることで、実際の負荷状態に基づく正しいPFCチャンネル数が可能になります。STNRGPF01ではこの機能により、幅広い負荷電流の要件で常に最高の電力効率が保証されます。

 コントローラに実装されている機能には、突入電流制御、ソフトスタートアップ、バーストモード冷却管理、ステータス表示などがあります。また、過電圧、過電流、熱障害に対してフルセットの組み込み保護も備えています。

 設計者が容易に作業を始められるように、STMicroelectronicsはSTNRGPF01をベースにする3kW PFC電源管理評価ボード、STEVAL-IPFC01V1も提供しています(図6)。このボードの特長と仕様を以下に示します。

・入力電圧範囲:90~265VAC
・ライン周波数範囲:47~63Hz
・最大出力電力:3kW(230V時)
・出力電圧:400V
・力率:0.98超(20%負荷時)
・全高調波歪み:5%未満(20%負荷時)
・混合信号制御
・スイッチング周波数:111kHz
・サイクルごとの安定化(アナログ電流制御ループ)
・入力電圧と負荷のフィードフォワード
・位相シェーディング
・バーストモード動作


図6:STEVAL-IPFC01V1のブロック図。1.I/O測定信号、2.アナログ回路、3.パワー段、4.STNRGPF01デジタルコントローラを含むデジタル制御部。3相インターリーブPFCが示されています。(画像提供:STMicroelectronics)

 この評価ボードには、STNRGPF01混合信号コントローラに加え、STW40N60M2 Nチャンネル、600V、34A低QgシリコンパワーMOSFETとPM8834TRゲートドライバICが含まれています。

窒化ガリウムFETを備えたブリッジレストーテムポールPFC

 ブリッジレスPFCトポロジは、ダイオードブリッジ整流器の使用に伴う電圧降下と非効率性を解消するために開発されたものです。ブリッジレストーテムポールPFCは、GaNやSiCなどのWBGパワー半導体の登場によって可能になりました(図7)。

 従来のトーテムポール設計(a)では、2つの窒化ガリウムFETと2つのダイオードをライン整流に使用します。ブリッジレストーテムポールに変更された設計(b)では、ダイオードが2つの低抵抗シリコンMOSFETに置き換わり、ダイオードの電流-電圧(IV)降下を取り除いて効率性を向上させています。


図7:従来のトーテムポール設計(a)では、ライン整流に2つの窒化ガリウムFETと2つのダイオードが使われています。変更された回路(b)では、ダイオードが2つの低抵抗シリコンMOSFETに置き換えられ、ダイオードの電流-電圧降下が取り除かれてブリッジレストーテムポールの効率性を向上させています。(画像提供:Transphorm)

 窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ(HEMT)の逆回復電荷(Qrr)がシリコンMOSFETのQrrに比べて大幅に小さいことにより、ブリッジレストーテムポールの設計が実用化されています(図8)。以下に示すCCMでのトーテムポールPFCの簡略回路図で焦点となるのは、伝導損失の最小化です。


図8:CCMモードでのトーテムポールPFCの簡略回路図。高パルス幅変調周波数で動作しブーストコンバータとして機能する2つの高速スイッチング窒化ガリウムHEMT(Q1、Q2)、および大幅に低速なライン周波数(50Hz/60Hz)で動作する2つの超低抵抗MOSFET(S1、S2)が含まれます。(画像提供:Transphorm)

 この回路には、2つの高速スイッチング窒化ガリウムHEMT(Q1、Q2)、2つの超低抵抗MOSFET(S1、S2)が含まれています。Q1とQ2は、高パルス幅変調(PWM)周波数で動作し、ブーストコンバータとして機能します。S1とS2は、大幅に低速なライン周波数(50Hz/60Hz)で動作し、同期整流器として機能します。

 一次電流パスには、高速スイッチと低速スイッチ1つずつのみが含まれており、ダイオード降下はありません。S1とS2は、8(b)と8(c)に示されるように同期整流器の役割となります。プラスのACサイクルの間はS1がオン、S2がオフで、AC中性線をDC出力へのマイナス端子に強制的に結合します。マイナスのサイクルでは、その逆になります。

 CCM動作が可能になるには、スレーブトランジスタのボディダイオードがフライバックダイオードとして機能する必要があり、これによりインダクタ電流がデッドタイム中に流れます。しかし、マスタースイッチがオンになった時点で、ダイオード電流がゼロにすばやく減衰して逆阻止状態に移行する必要があります。

 これはトーテムポールPFCの重要なプロセスであり、高電圧Si MOSFETのボディダイオードのQrrが高いと、トーテムポールPFCでは異常なスパイク、不安定な状態や、付随する事象として高スイッチング損失が生じます。窒化ガリウムスイッチのQrrが低ければ、設計者はこのハードルを乗り越えることができます。

 設計者は、Transphormが提供するTDTTP4000W066C 4kWブリッジレストーテムポールPFC評価ボードを使用することで、回路の動作を研究できます。このボードは、Microchip TechnologyのMA330048 dsPIC33CK256MP506デジタル電源プラグインモジュール(PIM)をコントローラとして使用します。

 TransphormのGen IV(SuperGaN)TP65H035G4WS窒化ガリウムFETにより、非常に高効率の単相変換が実現されます。回路の高速スイッチングレッグにTransphormの窒化ガリウムFETを使用し、回路の低速スイッチングレッグに低抵抗MOSFETを使用することで、性能と効率性が向上します。

シリコンFETとSiC FETを組み合わせた双方向トーテムポールPFC

 グリッド対話型バッテリ式電動輸送機器やバッテリベースのエネルギー貯蔵システムの設計者向けに、Infineonは双方向パワー機能を備えた3300Wトーテムポール力率補正回路として、EVAL3K3WTPPFCSICTOBO1評価ボードを提供しています(図9)。

 このブリッジレストーテムポールPFCボードは、立方インチあたり72Wの高電力密度を提供します。EVAL3K3WTPPFCSICTOBO1ボードに実装されているトーテムポールは、CCMで整流器(PFC)モードとインバータモードの両方で動作し、InfineonのXMC1000シリーズマイクロコントローラを使用した完全なデジタル制御を実装しています。


図9:3300WトーテムポールPFC評価ボードEVAL3K3WTPPFCSICTOBO1のブロック図。この図に示されるトポロジは、ボードの仕様として立方インチあたり72Wの電力密度をもたらします。(画像提供:Infineon Technologies)

 このトーテムポールPFCは、InfineonのIMZA65R048M1 64mΩ、650V、CoolSiC SiC MOSFETと、同じくInfineonのIPW60R017C7 17mΩ、600V、CoolMOS C7シリコンパワーMOSFETを組み合わせて使用しています。

 このコンバータは、CCMでハイライン(最小176Vrms、公称230Vrms)で排他的に動作し、スイッチング周波数は65kHz、半負荷で最大99%の効率を実現します。この3300W双方向(PFC/AC-DCとインバータ/AC-DC)トーテムポールソリューションで使用するInfineonのデバイスには、他にも以下のものがあります。

2EDF7275FXUMA1絶縁型ゲートドライバ
ICE5QSAGXUMA1 QRフライバックコントローラとバイアス補助電源用のIPU95R3K7P7 950V、CoolMOS P7 MOSFET
・PFC制御実装用のXMC1404マイクロコントローラ

結論

 低力率は、電力グリッドとパワーコンバータに非効率性をもたらし、AC電源を電力とするさまざまな装置でPFCが必要となる要因でもあります。またPFCが必要な背景には、特定タイプの電子機器について最小力率レベルを指定する規制もあります。

 このような規制要件に適合しつつ、より小さなフォームファクタや性能向上へのニーズにも応えるために、設計者には、シンプルで低コストのパッシブPFC技術に代わる手法が必要になります。

 この記事で述べたように、設計者は代替手法として、デジタル制御技術とSiCやGaNなどのWBG半導体を駆使したアクティブPFC設計を実装し、さらなる高PFと小型化を目指した設計を実現することができます。

お勧めの記事
(1) 効率的なインターリーブ力率補正ソリューションの設計
(2) SiCベースのMOSFETを使用したパワー変換効率の改善



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