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産業用/科学用アプリケーション向けにHeNeレーザーを使用する理由とその方法

著者 Bill Schweber 氏
Digi-Keyの北米担当編集者 提供
2020-09-16

マルツ掲載日:2021-1-18


 今やレーザーは、ミクロレベルの測定、センシングから大規模な産業用機能に及ぶアプリケーションを実現可能にし、産業用システム設計者に不可欠のツールになっています。産業用や科学用アプリケーション向けに最も幅広く使用されているレーザーの1つが、ヘリウムネオン(HeNe)ガスレーザーです。

 これには、高性能で小型サイズ、安定性、高品質の光出力といったことを含むもっともな理由が多くあります。ただし、設計者は、効果的なレーザーの起動、連続動作、長寿命などを実現するために、レーザー管を適切な高電圧電源とマッチングする必要があります。

 この記事では、レーザーとレーザーオプションについて説明した後、HeNeレーザーをより詳細に調べ、それが幅広く使用されている理由に注目します。その後、Excelitas TechnologiesのREOファミリHeNeレーザーと適切な電源から、このクラスのレーザーサンプルデバイスのアプリケーションを成功させるために検討すべき要素を説明します。

レーザーとは?

 レーザー(Laser)は、「Light Amplification through Stimulated Emission of Radiation(放射の誘導放出による光増幅)」の頭文字を取ったものです。レーザービーム出力の特異な性質は、電磁エネルギーと出力波が単色で可干渉性があり、位相、時間、空間において互いに連携していることです。

 これは、レーザー出力が光スペクトルの可視や不可視のどちらの部分にある場合でも当てはまります。ほとんどのレーザーには固定出力波長(λ)がありますが、一部のレーザーはいくつかの離散した波長値の1つに設定できます。

 最初のレーザーは、1960年5月、カリフォルニア州マリブにあるヒューズ研究所の物理学者セオドア・H・メイマンによって実証されました。彼は、ルビー(CrAlO3)と写真用フラッシュランプをレーザーの「励起」源として使用し、694nmの波長で赤色の光線を生成しました。レーザーの概念に関する科学的功績と特許権が誰に認められるかという問題は、3人の物理学者の間で30年に及ぶ特許紛争の争点となりました。

レーザーの仕組み

 レーザーには、次の3つの基本的な構成要素があります。

・あらゆる方向に光を発するレーザー媒質(固体、液体、気体、半導体)
・レーザー媒質にエネルギーを与える励起源(フラッシュランプ、電子衝突を引き起こす電流、他のレーザーからの放射など)
・光増幅のポジティブなフィードバックメカニズムを提供する反射鏡で構成される光共振器(一方は完全に反射し、他方は部分的に反射)

 レーザーを発振するには、共振器内の電子の大部分をより高いエネルギーレベルに励起させる必要があります(反転分布と呼ばれる)。これは電子にとって不安定な状態であるため、電子は短期間この状態にとどまった後に、次の2つの方法で減衰して元のエネルギー状態に戻ります。

・最初に、ランダムに方向付けられた光子を発しつつ、電子が単に基底状態に戻っていく自然減衰があります。
・第二に、自然減衰する電子からの光子が他の励起電子とぶつかって基底状態に戻る誘導減衰があります。

 この誘導遷移により、光子の形でエネルギーが解放され、入射光子と同じ波長で同じ方向に位相内を移動します。放出された光子は、完全に反射する鏡と部分的に反射する鏡の間のレーザー媒質を介して、光共振器内を前後に移動します。この光エネルギーは、部分的に反射する鏡を通して伝送されるレーザー光のバーストに十分なエネルギーが蓄積されるまで増幅されます。

レーザーの4つの主な種類

 最初の光レーザーはルビー結晶に基づいていましたが、現在は4つの主なレーザーの種類と媒質(半導体ダイオード、気体、液体、個体)が使用されています。かなり単純化して説明すると、これらのレーザーは以下のように動作します。

(1)レーザーダイオード
 これは、固体材料の光共振器を使用して、半導体に存在するエネルギーバンドギャップから放出された光を増幅する発光ダイオード(LED)です。レーザーダイオードは、印加電流、温度、磁界を変えることで異なる波長に調整でき、出力は連続波(CW)やパルス状になります。

(2)ガスレーザー
 これは、ガスで満たされた管を共振器として使用します。電圧(外部励起源と呼ばれる)を管に印加して、ガス内の原子を反転分布に励起します。その中では、電子があるエネルギー状態とより高いエネルギー状態の間を往来します。光子は鏡により共振器の両端を往復し、その数は発振動作で増大します。通常、この種類のレーザーから放出される光はCWです。

(3)液体および色素レーザー
 これは、レーザー媒質として色素セルの液体懸濁液の活物質を使用します。これらのレーザーは、色素の化学組成を変更することによりいくつかの波長の1つに調整できるため、人気があります。

(4)固体自由電子レーザー
 これは、蛇行する外部磁界に浸漬された光共振器に沿って移動する電子ビームを使用します。磁界による電子の方向の変化によって、光子が放出されます。このレーザーは、マイクロ波からX線領域に至るまで波長を生成できます。

 もちろん、動作の詳細には、高度な量子物理学、材質科学、電磁エネルギーの原理、電源、および励起源が関係しています。放出される特定の波長は、レーザーの種類、材料、レーザーの励起方法によって変わります(表1)。


表1:さまざまなレーザーの種類の概要は、各レーザー媒質によって生成される光の特定の波長を示しています。(表提供:Federation of American Scientists)

 レーザーベースのシステムの設計者にとって、関連パラメータ、それらが意味するもの、およびそれらの制約の理解に貢献する限り、根本的な原理は興味深いものです。

設計者にとって重要なレーザーパラメータ

 すべての部品と同様に、基本的な選択や性能を定義する最上階層のパラメータに加えて、第2階層と第3階層のパラメータが数多くあります。レーザーにおいて最初に注目するパラメータは、出力波長、出力電力、ビーム径、ビーム発散(広がり)です。同じく重要なのが、出力タイプ(パルスまたはCW)、効率性、出力ビーム断面形状(プロファイル)、寿命、制御性、使いやすさです。

 レーザー出力パワーは、波長やレーザーの種類に応じてミリワットからキロワットの範囲に及びます。小規模のテストや測定器具などの多くのレーザーアプリケーションでは、数ミリワットしか必要としません。一方、キロワットのレーザーは、金属切削や指向性エネルギー兵器に使用されます。

 すべての光パワー測定と同様に、レーザー出力パワーを正確に定量化することは複雑であり、米国標準技術局(NIST)の技術者はこの課題に多大な労力を費やしました。この測定は、光エネルギーの特性、つまり波長、電力レベル、CW/パルス、測定されるパラメータ(平均電力、ピーク電力、スペクトラム、分散など)に影響されます(表2)。


表2:レーザー光パワーの測定は大きな課題であり、波長や出力時間に応じてさまざまなセンサや技術が必要です。(表提供:Coherent Inc.)

 また、レーザーの出力電力や波長に関するほぼすべての項目は、目、皮膚、物品の損傷を防ぐために、多くの安全規制の対象となっていることに注意してください。これらの複雑な規制と関連するレーザークラスは、世界のさまざまな国や地域の規制機関により定義されています。

 これは、プロジェクトに最低限のレーザー電力を使用したり、ベンダーがさまざまな出力電力レベルを備えたレーザーを提供したりするもう一つの理由です。たとえば、REOファミリには、0.8、1.0、1.5、2.0、3.0、5.0、10、12、15、25mW出力(25:1以上の範囲)を備えた類似のHeNeレーザーが含まれます。

HeNeレーザーの用途、機能、動作

 各用途には、一般的に状況の物理的性質によって定義される異なる波長、電力レベル、他の仕様が必要であるため、すべての部品選択と同様に、1つの「最適な」レーザーユニットというものはありません。多くの場合、HeNeレーザーは、サンプルとの直接的な物理的接触を必要としない非破壊光学検査技術であるラマン分光など、多くの産業用およびテストプロジェクトに好適です。

 ラマン分光は、物質解析、顕微鏡検査、薬剤、科学捜査、食品偽装の識別、化学反応モニタリング、さまざまな国土安全保障機関における固体、粉体、液体、気体の高速で正確な化学分析に使用されます。

 これらの用途向けのHeNeレーザーの魅力的な属性には、安定した出力波長と電力、λ= 632.8nm(しばしば633nmと単純化される)での非常に単色性のある赤色出力、ナロービーム、低発散、長い距離と時間にわたる優れた出力一貫性と安定性が含まれます。

 HeNeレーザーは、内向きの鏡を備え、85~90%のヘリウムガスと10~15%のネオンガス(実際のレーザー媒質)を約1トル(0.02ポンド毎平方インチ(lb/in2))の圧力で満たした中空ガラス管を中心に構築されます。また、この管には内向きの鏡が2枚あります。一方には平坦な高反射鏡があり、他方には透過率約1%の凹面出力カプラ鏡があります(図1)。


図1:HeNeレーザーの中核は、大量のヘリウムと少量のネオンで満たされたガラス管です。このガラス管の後端には完全に反射する内部ミラーがあり、ビーム出口端には透過率1%の出力結合用ミラーがあります。(画像提供:Wikipedia)

 励起プロセス中は、高電圧パルス(約1000V~1500VDC、10~20mA)によって混合ガスへの放電が開始されます。実際のレーザー発振は、Ne原子の電子軌道エネルギーレベル間(3sから2pなど)のキャリアの脱励起に由来します。

 この3sから2pへの遷移により、632.8nmの1次出力が生成されます。他にもエネルギーレベルの遷移が発生し、543nm、594nm、612nm、1523nmで出力を生成しますが、632.8nmの出力が最も有用です。

HeNeレーザーの現在のカタログアイテム

 初期のレーザーのユニットは多くの場合、電源と同様に手作りでした。現在、HeNeガスレーザーなどの特に広範に使用されるレーザーは「市販」部品としてすぐに入手可能で、Excelitas Technologiesが提供するREOファミリの2つのレーザーが示すように、幅広い電力定格を備えています。

 最初の例として、電力スケールのローエンドにあるModel 31007は、0.8mW(最小)を供給でき、0.57mmのビーム径および1.41ミリラジアン(mrad)のビーム発散を備えています(図2)。

 このレーザーには、長さ178mm、直径44.5mmのレーザー管の動作中に1500V(5.25mA時)が必要で、医療機器・放射線保健センター(CDRH)/CEが定めるIIIa/3Rの安全定格を保持しています。


図2:Model 31007低電力HeNeレーザーは、0.8mW以上を供給でき、0.57mmのビーム径と1.41mradのビーム発散を備えています。(画像提供:Excelitas Technologies)

 REOの電力範囲のハイエンドにある30995は、17mW(標準)と25mW(最大)のレーザーで、3500V(7mA時)を必要とします。このレーザーの管の長さは約660mm、ビーム幅は0.92mm、ビーム発散は0.82mradです。このレーザーは、より制限的なIIIb/3B CDRH/CE安全定格を保持しています。

 最低電力で作業可能なレーザーを選択すべき理由はたくさんあります。低電力により安全上の懸念や規制義務が低減し、管サイズの小型化、コスト削減、電源の小型化が実現します。

電源:HeNeレーザーにとって重要

 電源は、レーザー部品の性能にとって重要です。HeNeレーザーの場合、レーザー管はまず励起プロセスを開始するために約10kVDC(降伏電圧)を必要とします。加えて、レーザー管には、1~3kVDC範囲の定常状態の維持電圧と10mA未満の電流が必要です。

 電力レベルは控えめ(わずか20~30ワット)ですが、基本的な電気的および電磁干渉(EMI)性能に加えて、特に安全/規制要件や沿面距離、クリアランスなどの要素のための認証を考慮すると、この電圧に適切な電源を設計するための装備、訓練、時間を有する技術者はほとんどいません。

 維持電圧と比較して、より高い開始電圧が必要なのはなぜでしょうか?HeNeレーザーは「負抵抗」デバイスであるため、管にわたる電圧は電流の上昇に伴って低下します。今はほとんど使われなくなったNE-2「グロー球」バルブなどの単純なネオンバルブでも、同じ問題が発生します。

 降伏または「点弧」電圧は約90V(ACまたはDC)で、その後に動作電圧は約60Vに低下します。設計者が高い開始電圧を供給(その後に低い動作電圧を供給)した1つの方法は、約220kΩの直列バラスト抵抗を使用することでした(図3)。


図3:HeNeレーザー管やネオンランプ(この図のNE-2など)のような負抵抗デバイスには、高電圧/低電流の初期段階とそれに続く低電圧/高電流の維持段階に対応するバラスト抵抗機能が必要です。(画像提供:Lewis Loflin/Bristol Watch)

 ただし、このシンプルな解決策は、商用アプリケーションのHeNeレーザー管には適切ではありません。第一に、安全と規制の義務があります。第二に、最適な性能を実現するために電源をレーザー管と適切にマッチングさせる必要があり、開始電圧は許容範囲内で維持する必要があります。第三に、電源の出力電圧と電流ソーシングの安定性は、レーザーの安定性の維持にとって重要です。

 これらの理由から、Excelitas Technologiesは、低電力HeNeレーザーの技術要件や規制要件を満たすプラグイン電源を提供しています。たとえば、39783電源は、100~130VACや200~260VAC(50~400Hz)で動作し、10kVDC以上の開始電圧、5.25 mAの動作電流で1500~2400Vを供給します(図4)。

 厳密な電流レギュレーションはHeNe管の安定した性能にとって重要であるため、39783は電流を±0.05mAに維持します。この電源のフットプリントは241×133mmと控えめで、高さは54mmです。これには、セキュリティと安全のための物理的キーロックも付属します。


図4:HeNeレーザー用39783電源は、kVクラスの電源の厳格な規制要件を満たしつつ、HeNe管の開始と維持動作の段階において安定した制御電圧と電流を提供します。(画像提供:Excelitas Technologies)

 より大型のHeNe管向けに、Excelitasは同じパッケージサイズで39786電源を用意しています。このユニットは3200~3800Vのより高い出力に対応し、開始電圧は12.5kV以上で、最大7.0mAのDC電流を提供します。

結論

 レーザーには、さまざまな用途向けに多くの形態があります。妥当な電力レベルで安定した単色出力を求めている産業用システム設計者にとって、HeNeガスレーザーは魅力的な選択肢です。ただし、この記事で説明したように、レーザーは性能、規制、安全、セキュリティの要件を満たす適切な電源と組み合わせる必要があります。



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