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ゼロドリフトオペアンプを使用し高精度低電力の産業システム制御を実現する方法

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード) 氏
Digi-Keyの北米担当編集者 提供
2020-10-22

マルツ掲載日:2021-03-02


 産業システムが機械制御から電子制御に移行するにつれ、製品品質と労働者の安全性の両方で改善が見られています。労働者の安全性については、主に労働者が過酷な環境から保護されるようになったため向上が見られています。

 しかし、極端な温度にさらされ、電気ノイズや電磁妨害(EMI)がある厳しい環境だからこそ、回路の安定性と感度の両方を維持するためには、良好な信号調整が不可欠になります。回路の安定性と感度は、産業機械の動作寿命における信頼性および精度の高い制御に必要です。

 信号調整チェーンにおける重要なコンポーネントは、必要な信号を取得し、増幅するために使用する高ゲインのDC差動アンプであるオペアンプです。標準的なオペアンプは温度ドリフトの影響を受けやすく、精度が限られているため、産業用要件を満たすために、設計者はシステムレベルの自動較正を何らかの形で追加しています。

 問題は、この較正機能の実装が複雑になり、消費電力が増加する可能性があることです。また、より多くのボードスペースが必要となり、コストと設計時間が追加されます。

 この記事では、産業用アプリケーションの信号調整要件と、設計者が気をつけるべき点を考察します。次に、ON Semiconductorの高性能ゼロドリフトオペアンプソリューションを紹介し、産業用信号調整の要件を満たすためにそれらを使用する理由と方法を説明します。これらのデバイスの他の関連する特性、たとえば、高いコモンモード除去比(CMRR)、高い電源電圧変動除去比(PSRR)、高いオープンループゲインについても検討します。

産業用信号調整アプリケーション

 ローサイドの電流センシングとセンサインターフェースは、産業用システムでよく使用されています。これらの回路に関連する差動信号が非常に小さいため、設計者は高精度なオペアンプを必要とします。

 ローサイド電流センシングは過電流状態を検出するために使用され、フィードバック制御によく使用されます(図1)。低値センス抵抗(<100mΩ)は、グランドへの負荷と直列に配置されます。抵抗の値が低いと電力損失と発熱が減少し、それに応じて電圧降下が小さくなります。

 高精度ゼロドリフトオペアンプは、外部抵抗R1、R2、R3、R4(ここではR1=R2、R3=R4)で設定されたゲインでセンス抵抗の電圧降下を増幅するために使用できます。高精度を実現するためには精密な抵抗が必要であり、ゲインはA/Dコンバータ(ADC)のフルスケールを利用して最高の分解能を実現するように設定されます。


図1:センス抵抗とADC間のオペアンプインターフェースを示すローサイド電流センシング。(画像提供:ON Semiconductor)

 産業用システムや計装システムでひずみ、圧力、温度を測定するために使用されるセンサは、多くの場合、ホイートストンブリッジ構成で構成されます(図2)。測定に使用するセンサの電圧変化は非常に小さくなる可能性があり、ADCに送信する前に増幅しなければなりません。高精度ゼロドリフトオペアンプは、高ゲイン、低ノイズ、低オフセット電圧のため、これらのアプリケーションでよく使用されます。


図2:高精度オペアンプは、ホイートストンブリッジとよく使用され、ひずみ、圧力、温度を測定するセンサからの信号を増幅して、その信号をADCに送信します。(画像提供:ON Semiconductor)

高精度オペアンプの主要パラメータ

 オフセット電圧やオフセット電圧ドリフト、ノイズの影響の受けやすさ、オープンループ電圧ゲインは、電流センシングやセンサインターフェースアプリケーションにおいてオペアンプの性能を制限する主要なパラメータです(表1)。


表1:精度に影響を与える高精度オペアンプの主要パラメータ。(画像提供:ON Semiconductor)

 入力オフセット電圧(メーカーによっては、VOSやVIOで示される)は、VIN+とVIN-の間に差動電圧を引き起こす半導体製造プロセスの不完全さによって生じます。これは部品間のばらつきで、温度とともにドリフトすることがあり、正または負になる可能性があるため、較正が困難です。

 標準オペアンプのオフセットやドリフトを低減させようとする設計者の労力は、複雑さを増すだけでなく、場合によっては消費電力の増加につながる可能性があります。たとえば、差動アンプの構成でオペアンプを使った電流センシングを考えてみましょう(図3)。


図3:差動アンプ構成のオペアンプによる電流センシング。入力オフセット電圧がノイズゲインによって増幅され、出力にオフセット誤差が生じるため、オフセット電圧が低いことが重要です(「Error due to VOS」と記載)。(画像提供:ON Semiconductor)

 出力電圧は、式1に示すように、信号ゲイン項(VSENSE)とノイズゲイン項(VOS)の和になります。

      (式1)

 内部オペアンプのパラメータとして、入力オフセット電圧に信号ゲインではなくノイズゲインが乗算されるため、出力オフセット誤差が発生します(図3の「Error due to VOS」)。高精度オペアンプは、さまざまな技術を駆使してオフセット電圧を可能な限り最小限に抑えています。

 ゼロドリフトオペアンプでは、これは特に低周波やDC信号に適用されます。高精度ゼロドリフトオペアンプのオフセット電圧は、汎用オペアンプに比べて2桁以上低くなることがあります(表2)。


表2:選択された汎用オペアンプとチョッパー安定化ゼロドリフトオペアンプの最大オフセット電圧の比較では、高精度ゼロドリフトオペアンプのオフセット電圧は2桁以上低くなることがあります。(画像提供:ON Semiconductor)

ゼロドリフトオペアンプ

 ゼロドリフトオペアンプの性能が向上したことで、設計者は産業用アプリケーションの信号調整要件を満たすことができます。異なるレベルの性能を提供するゼロドリフトオペアンプの2つの例として、ON SemiconductorのNCS325SN2T1GNCS333ASN2T1Gがあります。

 NCS325SN2T1Gデバイスは、50μVのオフセットと0.25μV/℃のドリフトという利点を得られる精密アプリケーションに使用でき、NCS333ASN2T1Gファミリは10μVオフセットとわずか0.07μV/℃のドリフトを提供するため、最も要求の厳しい高精度アプリケーションに適しています。これら2つのオペアンプは、異なる内部アーキテクチャを使用してゼロドリフトを実現しています。

 NCS333ASN2T1Gは、チョッパー安定化アーキテクチャを採用しており、温度や経年に対するオフセット電圧のドリフトを最小限に抑えることができます(図4)。従来のチョッパーアーキテクチャとは異なり、チョッパー安定化アーキテクチャには2つの信号経路があります。


図4:NCS333ASN2T1Gには2つの信号経路があります。2番目の経路(下)は入力オフセット電圧をサンプリングし、入力オフセット電圧は出力のオフセット補正に使用されます。(画像提供:ON Semiconductor)

 図4では、下側の信号経路でチョッパーが入力オフセット電圧をサンプリングし、それから入力オフセット電圧が出力のオフセット補正に使用されます。オフセット補正は、125kHzの周波数で発生します。

 チョッパー安定化アーキテクチャは、関連するナイキスト周波数(オフセット補正周波数の1/2)までの周波数で最高の性能を発揮するように最適化されています。信号周波数がナイキスト周波数である62.5kHzを超えると、出力にエイリアシングが発生することがあります。これは、すべてのチョッパーやチョッパー安定化アーキテクチャに固有の制限事項です。それにもかかわらず、NCS333ASN2T1Gオペアンプは125kHzまでは最小のエイリアシング、190kHzまでは低エイリアシングを実現しています。

 ON Semiconductorの特許取得済みのアプローチは、エイリアシングの影響を低減するために、チョッパー周波数とその第5高調波にチューニングされた2つのカスケード型の対称的な抵抗-コンデンサ(RC)ノッチフィルタを利用しています。

オートゼロアーキテクチャ

 ゼロドリフトオペアンプの別のアプローチとして、オートゼロアーキテクチャがあります(図5)。オートゼロ設計では、メインアンプとヌルアンプを搭載しています。また、クロックシステムを使用しています。第1フェーズでは、ヌルアンプ出力の前フェーズからのオフセット誤差をスイッチドキャパシタが保持します。

 第2フェーズでは、ヌルアンプの出力からのオフセットを使用して、メインアンプのオフセットを補正します。ON SemiconductorのNCS325SN2T1Gは、オートゼロアーキテクチャを使用して構築されています。


図5:NCS325SN2T1Gなどのオートゼロオペアンプの簡易ブロック図で、スイッチドキャパシタを示しています。(画像提供:ON Semiconductor)

 NCS333ASN2T1G(チョッパー安定化アーキテクチャ)とNCS325SN2T1G(オートゼロアーキテクチャ)では、前述したオフセット電圧とドリフトの違いに加えて、アーキテクチャの違いにより、オープンループ電圧ゲイン、ノイズ性能、エイリアシングの影響の受けやすさに違いが生じます。

 オープンループ電圧ゲインは、NCS333ASN2T1Gで145デシベル(dB)、NCS325SN2T1Gで114dBです。ノイズを考慮すると、NCS333ASN2T1GはCMRRが111dB、PSRRが130dB、NCS325SN2T1GはCMRRが108dB、PSRRが107dBです。どちらも非常に良い定格ですが、NCS333ASN2T1GはNCS325SN2T1Gより性能が優れています。

 また、NCS333ASN2T1Gシリーズのオペアンプは、エイリアシングを最小限に抑えています。これは、エイリアシングの影響を低減するために、チョッパー周波数とその第5高調波にチューニングされた2つのカスケード型対称RCノッチフィルタを使用したON Semiconductorの特許取得済みのアプローチによるものです。

 理論的には、オートゼロアーキテクチャは、チョッパー安定化型よりもはるかに強いエイリアシングを示します。しかし、エイリアシングの影響は大きく変化する可能性があり、常に規定されているわけではありません。

 使用される特定のオペアンプのエイリアシング特性を理解するのは設計者次第です。エイリアシングはサンプリングアンプの欠陥ではなく、動作です。この動作とそれを回避する方法を知ることで、ゼロドリフトアンプを最高の状態で動作させることができます。

 最後に、オペアンプがEMIの影響を受ける程度はさまざまです。半導体接合は、EMI信号をピックアップして整流し、EMIによって引き起こされた電圧オフセットを出力に発生させ、全誤差に別の要素を追加する可能性があります。EMIの影響を最も受けやすいのが入力ピンです。高精度なNCS333ASN2T1Gオペアンプは、EMIの影響を受けにくくするローパスフィルタを内蔵しています。

設計とレイアウトの考慮事項

 最適なオペアンプ性能を確保するためには、設計者が優れたプリント基板の設計手法に従うことが必須です。高精度のオペアンプは高感度のデバイスです。たとえば、0.1μFのデカップリングコンデンサをできるだけ電源ピンの近くに配置することが重要です。また、シャント接続を行う場合は、回路基板のトレースは同一長さ、同一寸法で、できるだけ短くする必要があります。

 オペアンプとシャント抵抗は基板の同じ側に配置し、最高レベルの精度を必要とするアプリケーションでは、4端子シャント(ケルビンシャントとも呼ばれる)を使用する必要があります。これらを組み合わせることで、EMIの影響を受けにくくすることができます。

 シャントへの接続は、必ずシャントメーカーの推奨事項に従ってください。不適切な接続は、測定に不要な漂遊リードとセンス抵抗を追加し、誤差を増大させます(図6)。


図6:漂遊抵抗(RLeadとRSense)を示した2端子シャント抵抗への接続。(画像提供:ON Semiconductor)

 精度は、入力ピンの温度に依存したオフセット電圧の変動により影響を受ける可能性があります。こうした変動を最小限に抑えるために、設計者は熱電係数の低い金属を使用し、熱源や冷却ファンからの温度勾配を防ぐ必要があります。

まとめ

 正確な信号調整へのニーズは、さまざまな産業用アプリケーションにおいて高まっています。このようなニーズの高まりに伴い、低電力でコンパクトなソリューションが求められています。

 オペアンプは信号調整で重要なコンポーネントですが、設計者は、経年や温度に対して安定性を確保するために自動較正やその他の機構を追加する必要があり、その結果、複雑さ、コスト、追加の消費電力が発生しています。

 幸いなことに、連続的な自動較正を備え、オフセット電圧が非常に低く、経年と温度に対するドリフトがほぼゼロに近い高性能のゼロドリフトオペアンプに頼ることができます。また、広いダイナミックレンジで低消費電力を実現し、小型で、高CMRR、高PSRR、高オープンループゲインといった特長を備えており、これらすべてが産業用アプリケーションで重要な特性となっています。

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