マルツTOP > APPLICATION LAB TOPページ おすすめ技術記事アーカイブス > 適切なケーブルアセンブリを使用し高速データ通信の信号品質を確保する

適切なケーブルアセンブリを使用し高速データ通信の信号品質を確保する

著者 Art Pini 氏
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2024-04-04

マルツ掲載日:2024-08-26



 電子システムアーキテクチャは、より小型のフォームファクタでより高レベルの変調方式による高速データレートを必要としています。したがって、設計者は、信号の品質(シグナルインテグリティ)を維持して最大ビット誤り率(BER)の要件を満たすために、伝送線路の損失を最小限に抑え、ノイズ、反射、クロストークの影響を受けにくくするよう取り組むため、プリント回路基板(プリント基板)のレイアウトが複雑になります。また、IC間や基板間の電気信号や光マルチレーン信号では、特に差動信号ペアにおいて、信号スキューの最小化が求められます。

 このようなニーズに対応し、標準的な基板を使用してコストアップを回避する方法の1つは、プリント基板のトレースだけに頼るのではなく、高速ケーブルアセンブリを使用することです。

 高速ケーブルアセンブリは、シングルエンドや差動構成、高度な材料、信号の整合性に優れた技術を使用し、銅や光ファイバを用いて高密度、マルチレーンの信号経路をサポートします。いくつかの実装は、最大64ギガビット/秒(Gbps)の動作速度を特長としています。

 この記事では、何が高速化の必要性を駆り立てるのか、そしてどのように対処しているのかについて論じます。その後、Samtec Inc.の高速ケーブルアセンブリを紹介し、その機能と用途について説明します。

スピードの必要性

 今日では、より高速の通信が強く求められています。5Gや6Gによるセルラーや人工知能(AI)、量子コンピューティング、ビッグデータなどの活用により、新しいシステムアーキテクチャが駆り立てられ、より速い伝送速度での高い帯域幅とともにデバイスやシステムのサイズ縮小が要求されます。

 これらの開発技術には、ノイズ、クロストーク、反射、電磁干渉、その他の損失や干渉源が存在する中で、最高の信号の整合性を提供しつつ高い信号対雑音比(SNR)を維持できる相互接続が必要です。

 高速化により、接続技術でも変化が必要とされています。第一に、シングルエンド信号伝送は、リターンパス(しばしばグランドと呼ばれる)を基準とする1本のワイヤでデータを伝送するものですが、2本のワイヤで180度の位相差のデータ信号を伝送する差動信号接続に取って代わられつつあります。差動信号は、2つの導体に共通するノイズ(コモンモードノイズ)を抑制することでSNRを向上させます。

 第二に、データエンコーディングは、1クロックサイクルあたり1ビットのNRZ(非ゼロ復帰)エンコーディングから、1クロックサイクルあたり4レベルまたは2ビットをエンコーディングするPAM4(4値パルス振幅変調)のような1クロックサイクルあたり複数ビットに移行しつつあります(図1)。


図1:NRZデータ(右)のアイダイアグラムでは1クロックサイクルごとに1または0の2つの状態があり、PAM4(左)では1クロックサイクルごとに00、01、10、11という4つの状態があります。(画像提供:Art Pini)

 PAM4は、00、01、10、11として符号化された4つのレベルを使用して、各クロックサイクルに2ビットのデータをパックします。これにより、クロックレートが一定であればデータレートは2倍になりますが、データの状態間の振幅変動が小さくなるため、SNRは低下します。したがって、PAM4シグナリングでは、より高いレベルの信号の整合性が求められています。

伝送線路の性能評価

 プリント回路基板でもケーブルでも、伝送線路の性能は通常、散乱パラメータ(Sパラメータ)によって周波数領域で特徴付けられます。Sパラメータは、デバイス内部の特定のコンポーネントを把握せずに、入力と出力で観察される電気的挙動に基づいてデバイスの特性を記述します。

 ケーブルのような2ポートデバイスを説明するために、測定したSパラメータに基づいて、いくつかの性能指数(FoM)が使用されています。最も多く使われているFoMは以下の通りです。

・挿入損失
 ケーブルの入力部から出力部に伝搬する信号に生じる減衰で、デシベル(dB)単位で表されます(理想的な伝送線路の挿入損失は0dB)。

・リターンロス
 出力のインピーダンス不整合に起因する信号の反射による損失です(dB単位)。

・クロストーク
 隣接する配線によって伝送路に結合される不要信号の尺度です(dB単位)。

 注目すべきその他のFoMは、伝送線路の伝播遅延とタイムスキューです。伝播遅延は、伝送線路を通じて伝搬する信号の時間遅延です。タイムスキューとは、2本以上の伝送線路上の信号間の時間差のことです。

伝送線路の選択肢

 従来のプリント基板設計のアプローチでは、最新のデータ通信規格の高周波、マルチレーン構成というFoM要件をコスト効率よく満たすことは困難です。これに対処するため、Samtecは、低損失と優れた信号の品質で注目される独自のEye Speedマイクロ同軸ケーブルとTwinaxケーブルを使用した高速ケーブルアセンブリを開発しました。マルチレーンケーブルアセンブリに組み込まれたこれらのケーブルは、そのユニークな構造によって優れた性能を発揮します(図2)。


図2:低損失と高い信号の品質で注目されるEye Speedマイクロ同軸ケーブル(左)とTwinaxケーブル(右)の構造の詳細を示しています。(画像提供:Samtec)

 Eye Speed同軸ケーブルは、中心素線の26~28AWG(米国ワイヤゲージ)導体で提供されます。この同軸ケーブル構造により、高い柔軟性、軽量、小型化を実現しており、これらは特に長距離伝送に重要です。

 誘電体は、低比誘電率で発泡型のフッ化エチレンプロピレン(FEP)の固体押出成形品として形成されています。発泡により空気の侵入が生じ、信号速度が速くなります。このケーブルファミリでは、信号の品質を向上させるため、メタルサーブ、テープ、編組シールドを選択できます。

 Eye Speed Twinaxケーブルの構造には、28~36AWGの銀メッキ銅導体が採用されています。ワイヤサイズが大きいほど挿入損失が小さくなり、小さいほど柔軟性が増します。誘電体の共押出しにより、信号の整合性と帯域幅が改善され、28~112Gbpsのレートが可能になります。小型設計により、信号導体間の結合が密になり、ケーブルアセンブリ内のピッチが小さくなります。

 14GHzのクロックによるデータ(56Gbps、PAM4)用の0.25mのEye Speed Twinaxケーブルの挿入損失は、線径にもよりますが-1~-2.2dBの範囲です。Twinaxケーブルの導体間のタイミングスキューは、1メートルあたり3.5ピコ秒(ps)未満です。どちらのタイプのケーブルも、SamtecのFlyover技術に対応しています。

Flyover技術とは?

 SamtecのFlyover技術は、Eye Speedケーブルアセンブリの高帯域幅と低損失を利用して、オンボードバス構造を置き換え、損失を大幅に削減します(図3)。


図3:Flyover技術ではEye Speedケーブルを使用し、低損失や超低損失のバックプレーン材料と比較して損失を大幅に低減し、14GHzと28GHzのクロックレートを提供します。(画像提供:Samtec)

 Flyover技術では必要な基板レイヤが少ないため、28Gbpsを超えるデータレートの基板レイアウトを簡素化できます。また、より安価なプリント基板材料を使用することも可能になります。

Samtecケーブルアセンブリ

 Eye Speedマイクロ同軸ケーブルとTwinaxケーブルには、広範なアセンブリオプションが用意されています。これらは高密度アレイとして利用可能で、一体型グランドプレーン、両性型コネクタ、ストレインリリーフ、さまざまな接続とラッチングオプションなどの機能を提供します。

 たとえば、ARC6-16-06.0-LU-LD-2-1は、16信号ペアのスリムなプラグツープラグ、ダイレクトアタッチケーブルアセンブリです。長さは6インチ(152.4mm)で、64GbpsのPAM4信号をサポートしています(図4)。


図4:ARC6-16-06.0-LU-LD-2-1は、64GbpsのPAM4信号をサポートする16の差動信号ペアを備えたダイレクトアタッチケーブルアセンブリです。(画像提供:Samtec)

 このアセンブリは、16本の超低スキューTwinaxケーブルを0.025インチ(0.635mm)のピッチで32個のコンタクトに分割した高密度2列設計で構成されています。コンタクトは、最適な信号の品質を実現するためにTwinax導体に直接はんだ付けされています。ケーブルは34AWGワイヤを使用した100Ω差動で、8ペアと24ペアの構成があります。これらの動作温度範囲は-40℃~+125℃です。

 ERCD-020-12-00-TEU-TED-1-Bは、20本2列のシングルエンド50Ω同軸ケーブルと40コンタクトのコネクタで構成されるカードエッジ間ケーブルアセンブリです(図5)。ケーブル長は12インチ(305mm)です。


図5:ERCD-020-12-00-TEU-TED-1-Bケーブルアセンブリは、34AWG中心導体のシングルエンド同軸ケーブルを使用しています。コンタクトは0.0315インチ(0.80mm)のピッチで配置されています。(画像提供:Samtec)

 同軸ラインは、34AWGの中心導体をリボンケーブルとして配置しています。コネクタのピッチは0.0315インチ(0.80mm)です。これらのケーブルは、14Gbpsの信号定格に対応しています。コネクタには、確実な嵌合を保証するスクイーズラッチロック機構を採用しています。

 オプションとして、1列あたり10本から60本のケーブル付きで、さまざまなラッチング機構を備えたアセンブリを入手可能です。動作温度範囲はすべて-25℃~+105℃です。

 HLCD-20-40-00-TR-TR-2ケーブルアセンブリは、長さ40インチ(1.02m)の50Ωシングルエンドケーブルを10本2列使用しています。0.0197インチ(0.5mm)のコンタクトピッチで40個のコンタクトを提供します(図6)。


図6:HLCD-20-40.00-TR-TR-2ケーブルアセンブリは、自己嵌合両性型コネクタを使用しています。(画像提供:Samtec)

 両性型コネクタには、同じコネクタで嵌合できるピンとソケットがあります。双方向データペアなど、コンタクトの極性が不要なアプリケーションで使用されます。

 HLCD-20-40.00-TR-TR-2では、-25℃~+105℃の標準動作温度範囲または-40℃~+125℃の拡張動作温度範囲を選択できます。

 HQDP-020-12-00-TTL-TEU-5-Bケーブルアセンブリは、2列の100Ω、30AWG Twinaxケーブルを使用しています。長さは12インチ(305mm)、ケーブル本数は20本、プラグtoカードエッジコネクタを使用し、14Gbpsでの動作が可能です(図7)。


図7:HQDP-020-12-00-TTL-TEU-5-Bアセンブリには、2列の100Ω Twinaxケーブルを備えたプラグtoカードエッジコネクタが付いています。(画像提供:Samtec)

 このファミリは、20本、40本、60本のケーブルと、さまざまな面実装コネクタやエッジマウントコネクタのオプションを提供し、コネクタピッチは0.020インチ(0.5mm)です。

まとめ

 データレートが高速化しているため、設計者は信号の整合性を確保するために革新的な方法を求め続けています。例えば、Samtecの製品を使用することで、従来のマルチレーンプリント基板信号バスの制約から抜け出し、今日の通信アプリケーションの仕様に適合するかそれを上回る、高性能で柔軟性があり、コスト効果の高いさまざまなケーブルアセンブリを活用することができます。




免責条項:このウェブサイト上で、さまざまな著者および/またはフォーラム参加者によって表明された意見、信念や視点は、DigiKey Electronicsの意見、信念および視点またはDigiKey Electronicsの公式な方針を必ずしも反映するものではありません。

 

このページのコンテンツはDigiKey社より提供されています。
英文でのオリジナルのコンテンツはDigiKeyサイトでご確認いただけます。
   


DigiKey社の全製品は 1個からマルツオンラインで購入できます

※製品カテゴリー総一覧はこちら



ODM、OEM、EMSで定期購入や量産をご検討のお客様へ【価格交渉OK】

毎月一定額をご購入予定のお客様や量産部品としてご検討されているお客様には、マルツ特別価格にてDigiKey社製品を供給いたします。
条件に応じて、マルツオンライン表示価格よりもお安い価格をご提示できる場合がございます。
是非一度、マルツエレックにお見積もりをご用命ください。


ページトップへ