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スケーラブルなマイクロコントローラを使用して設計の柔軟性を実現

著者 Kenton Williston 氏
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2024-05-15

マルツ掲載日:2024-10-07



 人工知能(AI)や複雑でグラフィックが豊富なヒューマンマシンインターフェース(HMI)などの高度な機能がさまざまなアプリケーションで一般的になるにつれ、製品設計者はより強力なマイクロコントローラユニット(MCU)を求めるようになっています。

 その一方で、設計者はこうした派手な機能を省き、コストを最適化した製品を作ることも求められています。こうした相反する圧力により、さまざまな市場要件に合わせて容易に拡張できるMCUを選択することが不可欠になっています。

 技術革新のスピードが増していることも、この圧力に拍車をかけています。アプリケーション要件は予期せず変更される可能性があるため、代替MCUを容易に利用できることが重要です。将来への備えと再利用も考慮する必要があります。他のプロジェクトで設計要素を再利用できると、時間とコストを大幅に節約できます。

 こうした課題に対処する1つの方法は、幅広い選択肢を備えたMCUファミリを選択することです。その好例がSTMicroelectronicsのSTM32H7です。価値が最適化されたエントリレベルの32ビットMCUから、豊富な機能セットを備えたデュアルコアMCUまで、幅広いオプションがあります。

 この記事では、STM32H7ファミリの機能を例にして、MCUファミリを選択する際に考慮すべき基準を紹介します。また、STM32H7 MCUで利用可能な開発ボードとツールも紹介し、このインフラストラクチャを使用してプロジェクトを開始する方法を説明します。

MCUファミリの柔軟性と拡張性を高める要因

 柔軟性のあるMCUファミリを探す際には、多くの要素を考慮する必要があります。幅広い性能とパワーレベルの選択肢があることは特に重要です。望ましいMCUファミリは、さまざまなターゲットに最適化された幅広いクロック速度とコアのオプションがあるものです。たとえば、低電力を求めるならArm Cortex-M4、高性能を求めるならArm Cortex-M7です。

 こうしたファミリのMCUは基本的な処理能力を備え、拡張機能のオプションを提供する必要があります。多くのアプリケーションは、データ保護と安全な通信を必要とします。ハードウェアベースの暗号化、セキュアブート、暗号アクセラレータなどの機能は、こうしたユースケースに不可欠です。同様に、デジタル信号プロセッサ(DSP)と浮動小数点命令は、データ集約型アプリケーションに不可欠です。

 また、MCUファミリは、シンプルなアプリケーションから大規模なソフトウェアフレームワークやデータストレージを必要とするアプリケーションまで対応できるよう、幅広いサイズのRAMとフラッシュメモリを提供する必要もあります。MCUは、必要なスケーラビリティを提供するために、内部メモリ能力を超えるアプリケーション用に外部メモリインターフェースを備えている必要があります。

 最後に、周辺モジュールオプションの多いMCUファミリの方が、対応できるアプリケーションも多くなります。そのため、USB、Ethernet、Bluetooth、Wi-Fiのような高度なI/Oのオプションが含まれているMCUファミリを選択することが重要です。

 理想は、選択されたファミリがその製品群全体でピンの互換性を提供でき、大規模なプリント回路基板(プリント基板)の再設計をしなくても、ハードウェアのアップグレードやダウングレードをサポートできることです。

 開発ツールは、ソフトウェアの観点からMCUファミリ全体をサポートする必要があります。開発を加速するためには、ソフトウェアの一貫したアプリケーションプログラミングインターフェース(API)と、堅牢なライブラリ、ミドルウェア、リアルタイムオペレーティングシステム(RTOS)のセットが必要です。

STM32H7:汎用性のケーススタディ

 STMicroelectronicsのSTM32H7シリーズは、これらの基準を満たすMCUファミリの一例です。表1に示すように、Arm Cortex-M7を中心に、基本的なMCUから先進的なMCUまで、高い拡張性を備えています。このシリーズには4つのラインがあり、それぞれが異なるアプリケーションに最適化されています。


表1:STM32H7シリーズ 4製品ラインの主なポイント。(表提供:STMicroelectronicsの資料を基に筆者作成)

 バリューラインは280~550MHzの速度で利用可能で、128KBの内蔵フラッシュメモリと1MBのRAMに対応します。さまざまな通信インターフェースと外部メモリ拡張をサポートし、性能重視のシステムにコスト効率の高いソリューションを提供します。STM32H750VBT6はそのようなMCUの1つで、14×14mmの100-LQFPで提供されます。

 シングルコアラインも280~550MHzの速度で動作します。最大2MBのフラッシュメモリと最大1.4MBのRAMを提供し、豊富なユーザーインターフェースとリアルタイム制御を必要とするアプリケーションに対応します。その一例がSTM32H743IIK6で、10×10mmの201-UFBGAパッケージに収められています。

 デュアルコアラインは、効率性を高めるために最適化されたセカンダリArm Cortex-M4コアを搭載しています。内蔵スイッチモード電源(SMPS)によって電力効率を高めます。その他、TFT-LCD、MIPI-DSI、ハードウェアJPEGコーデックなど、高度な周辺モジュールに対応します。典型的な例はSTM32H747AII6で、7×7mmの169-UFBGAパッケージに収められています。

 ブートフラッシュラインは一段と高い性能を提供し、最大速度は600MHzに達します。このラインは、リアルタイムエグゼキュートインプレース(XiP)アプリケーションを容易にするように設計されており、64KBのブートフラッシュと620KBのRAMを備えています。さらに、このラインの一部のモデルは、グラフィックスアクセラレーションを強化するオプションのNeoChrom GPUを搭載しています。このラインを代表するのが、10×10mmの144-UFBGAパッケージのSTM32H7R3Z8J6です。

STM32F4ファミリやSTM32F7ファミリと互換性を持つ利点

 STM32H7は、STMicroelectronicsのMCUの広範な製品群の一部であり、最も一般的なパッケージの兄弟製品であるSTM32F4ファミリやSTM32F7ファミリとピン互換性があります。これらのMCUは、すべてArm Cortex-Mコアをベースにしており、周辺モジュールとGPIOピンレイアウトは共通しています。

 この共通性により、設計者はハードウェアに大きな変更を加えることなく、容易にMCU間を移行できます。この互換性により、製品のアップグレードや、各ファミリの異なる機能に基づいて新製品を設計する際の開発時間とコストを削減することができます。

 さらに、構成と初期化コード生成用のSTM32CubeMX、開発とデバッグ用のSTM32CubeIDEなど、すべてのMCUが同じソフトウェア開発エコシステムでサポートされています。この互換性により、ソフトウェアコンポーネント、ミドルウェア、アプリケーションコードを、どちらのファミリをターゲットとするプロジェクトでも再利用できるようになり、開発サイクルがさらに加速します。

STM32H7シリーズ MCUの使用方法

 STM32H7 MCUを使い始めるには、いくつかの重要なステップと、開発ボードやツールの効果的な使用が必要です。これらの強力なマイクロコントローラを使用して開発を始める方法を以下で順を追って説明します。

(1) 開発ボードの選択
 初めて取り組む際に最適なディスカバリキットは、統合型のデバッガ/プログラマを備えており、通常はさまざまなオンボードユーザーLED、キー、センサ、コネクティビティオプションをサポートします。NUCLEO-F767ZI(図1)のようなNucleoボードは、柔軟性と手頃な価格のバランスが取れています。Arduino Unoと互換性があるため拡張が容易で、デバッガ/プログラマで使用するためのSTLINKインターフェースを備えています。


図1:NUCLEO-F767ZI開発ボードはシンプルですが、実験の出発点とするのにふさわしい柔軟性があります。(画像提供:STMicroelectronics)

 評価ボードは、最も包括的な周辺モジュールとコネクティビティオプションのセットを提供するため、全機能を確認するのに最適です。たとえば、STM32H745I-DISCO(図2)やSTM32H750B-DKのようなディスカバリキットでは、以下のような機能を備えたさまざまなインターフェースを迅速に評価できます。

・4.3インチタッチパネル付きRGBインターフェースLCD
・IEEE-802.3-2002準拠のEthernet
・PoE(Power over Ethernet)
・USB OTG FS
・SAIオーディオコーデック
・ST-MEMSデジタルマイクロフォンx 1
・512MビットQuad-SPI NORフラッシュメモリ x 2
・128MビットSDRAM
・4GBのオンボードeMMC
・CAN FD x 2
・Arduinoシールド互換
・USB再列挙機能を備えたオンボードSTLINK-V3Eデバッガ/プログラマ:大容量ストレージ、仮想COMポート、デバッグポート


図2:STM32H745I-DISCO評価ボードは、豊富なハードウェアリソースのセットを提供します。(画像提供:STMicroelectronics)

(2) ソフトウェアツールのセットアップ
 STMicroelectronicsは、同社のMCU向けに統合開発環境(IDE)を提供しています(図3)。これには、コンパイラ、デバッガ、初期化コード生成と周辺モジュールセットアップのためのコンフィギュレータが含まれています。


図3:STM32H7 IDEのスクリーンショットを示します。(画像提供:STMicroelectronics)

(3) 学習と実験
 次に、資料を読むことをお勧めします。開発ボードのユーザーマニュアルや、関連するSTM32H7のリファレンスマニュアルから始めるのがよいでしょう。これらの文書には、MCUアーキテクチャ、周辺モジュール構成、Pin-Mux、およびハードウェア特性に関する重要な情報が記載されています。

 サンプルプロジェクトで実験することは、ツールを学習する効果的な方法です。STMicroelectronicsは、さまざまなSTM32 MCU用のサンプルプロジェクトを提供しています。これらのサンプルは、さまざまなMCU機能の使用方法を理解するための素晴らしい出発点として役立ちます。

 最後に、開発者コミュニティです。ここではさらなるサポートを得られるでしょう。STコミュニティ、チュートリアル、ビデオなどのリソースを活用することで、一般的な問題の解決策や可能なプロジェクトのインスピレーションを得ることができます。

(4) 開発とデバッグ
 IDEは、コードを書き始め、コンパイルし、デバッグするのに必要なすべてを提供します。IDE内のコンフィギュレータは、周辺モジュールの初期化やミドルウェアのセットアップに活用できます。開発ボードに統合されたSTLINKデバッガ/プログラマインターフェースにより、リアルタイムデバッグが可能です。ブレークポイント、変数の監視、コードのステップスルーなどを使用して問題を特定することができます。

(5) プロジェクトの拡張
 拡張ボードは、ディスカバリボードやNucleoボードにコネクティビティやセンサなどの機能を追加することができます。開発ボードを介して目的の機能が確立されたなら、開発ボードの回路図を参考にしてカスタムプリント基板を設計することができます。

 カスタムボードの一例として、Seeed Technology Co., LtdのOpenMV4 CAM H7カメラプラットフォーム(図4)があります。これは、シングルコアのSTM32H743を使用しています。


図4:OpenMV4 CAM H7はビジョンシステム向けに意図されています。(画像提供:Seeed Technology Co. Ltd.)

 もう1つの例は、ArduinoのABX00051 Nicla Vision(図5)で、デュアルコアのSTM32H747を使用しています。


図5:ABX00051 Nicla Visionは、開発者がさまざまな画像センサを評価するのに役立ちます。(画像提供:Arduino)

まとめ

 製品設計におけるMCUの選択は、高度な機能とコストの最適化という相反する要求を考えると、非常に重要です。STMicroelectronicsのSTM32H7シリーズは、適切なMCUファミリを選択することで、現在および将来のニーズに対応するスケーラブルで柔軟なソリューションを提供できることを示す有力な例です。





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