マルツTOP > APPLICATION LAB TOPページ おすすめ技術記事アーカイブス > コストが低く信頼性の高い電子製品を実現するプリント基板サポートの選び方・使い方

コストが低く信頼性の高い電子製品を実現するプリント基板サポートの選び方・使い方

著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード) 氏
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2023-02-10

マルツ掲載日:2023-05-22


 組み立ては、白物家電製品、一般電子機器、車載用アプリケーションなど、ほとんどの電子機器の生産において、最後に残る工程の一つです。組み立ての後には通常、最終テストとパッケージングだけが残ります。機器が組み立て可能になるまでには、機器の製造コストのほとんどが既に消費されています。

 組み立て工程が信頼性を欠いていて高コストだと、標準以下の性能になったり不必要に機器全体のコストが高くついたりする可能性があります。そこで、射出成形されたプリント(回路)基板サポートを使用することをお勧めします。こうすることで、電気的絶縁が行われ、ネジ、ワッシャ、ナットが不要になり、最終組み立てが簡素化・高速化されます。

 射出成形されたプリント基板サポートは一見シンプルに見える部品ですが、設計者がサポートを選択する際に検討しなければならないポイントとして、サポートスタイル(粘着剤、エッジロック、リバースロック、スナップロックなど)、固定方法(ロック式やノンロック式など)、素材の選択(アセタール、各種ナイロン、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴムなど)を含む、多くの要素があります。

 ところが、これらにとどまらず、選択基準を複雑にしているのは、動作温度、予想される振動レベルに対処するための剛性と柔軟性のバランス、およびUnderwriters Laboratories(UL)94V-0定格部品か安価なUL 94V-2定格部品かの選択なども検討する必要があるという事実です。また、自動車の組み立てに使用される部品は、SAE(自動車技術者協会)のJ1639材料要求事項に基づいて評価する必要があります。

 これらの課題に対処し、射出成形プリント基板サポートの選択と使用を迅速化するために、設計者には、幅広い種類の部品を提供してすべてのプリント基板サポートのニーズに対応する「ワンストップショップ」となるサプライヤが必要です。

 そこで本稿では、射出成形プロセスによるプリント基板サポートの製造方法を確認し、材料規格と材料選択を見たうえで、実装構造の種類とプリント基板サポートにおけるその使用方法を確認します。次いで、Essentra Componentsの代表的なプリント基板サポートを紹介し、最後にその選択プロセスに関する提案と、製品アセンブリへのサポートの組み込みを行います。

射出成形

 サーモプラスチック(熱可塑性プラスチック)の射出成形は、プリント基板サポートなど、使用頻度が高いためコストが低くなる機械部品を製造することができます。この製造プロセスは、以下の5つの段階で行われます(図1)。

(1)サーモプラスチックのペレットを機械に投入し、正確な温度に液化させます。
(2)溶融したサーモプラスチックは、射出キャビティに入り、成形の準備に入ります。
(3)射出キャビティが必要な圧力に達すると、溶融したサーモプラスチックが一連のゲートで流れを制御されて金型内に射出されます。
(4)金型内のサーモプラスチックが最適な容量に達すると、安定した部品を製造するために、サーモプラスチックに圧力をかけ続ける保持段階に入ります。保持段階の第2フェーズでは、圧力を解放し、部品を冷却します。
(5)金型を開き、イジェクタピンで部品を押し出します。


図1:射出成形により、さまざまな箇所で適用可能なためコストが低くなるプリント基板サポートを製造できます。(画像提供:Essentra Components)

材料規格

 プリント基板サポートの材料規格として最も重要なのは、UL94難燃性要求事項と、自動車用ポリアミド(PA)プラスチック向けのSAE J1639分類体系です。これらは、プリント基板サポートに限らず、あらゆるタイプのアプリケーションに適用される一般的な規格です。

 UL94は、国際電気標準会議(IEC)規格60695-11-10および60695-11-20、ならびに国際標準化機構(ISO)規格9772および9773と整合しています。UL規格は、試験品に着火した後の炎の広がりやすさや消火のしやすさによって材料を分類しています。

・V-0は、垂直部分の燃焼が10秒以内に止むことを要求し、材料が滴下しても燃え上がらない限り許容しています。

・V-1は、垂直部分の燃焼が30秒以内に止むことを要求し、材料が滴下しても燃え上がらない限り許容しています。

・V-2は最も制約が少なく、垂直部分の燃焼が30秒以内に止むことを要求するだけであり、燃え上がっている材料の滴下を許容しています。

 SAE J1639は、車載用アプリケーションに使用されるPA(ポリアミド、ナイロン)プラスチックの分類と規格のための一覧である推奨規格です。PA射出・押出材料のASTM(米国材料試験協会)D 4066分類体系に基づいています。

 J1639では、車載用PAの記述的性質&特性を追加することを要求しています。さらに、各自動車メーカーでは、独自に策定したOEM規格でJ1639を補完しています。J1639の基本要素は以下の3つです。

・強化ナイロンと非強化ナイロンのグレードを標準化したもの(車載用アプリケーションの66、6、66/6など)
・これらPA材料の特性を評価するために用いるテスト方法を標準化したもの
・材料規格を提示した簡潔な一覧

成形可能な材料

 使用可能なプラスチックにはいくつかの種類があります。プリント基板サポート用としては、アセタール、ナイロン、EPDMゴムなどが最も一般的です。材質によっては、-40℃から+85℃までの動作温度に対応し、振動減衰や電気絶縁などの機能も備えています。カスタム設計向けには、+200˚C定格の高温材料が使用可能です。一般的な2つのナイロンとして、PA66とPA66/6があります。

 UL94V-2規格の材料を使用できるアプリケーションには、PA66を使用することができます。ナイロン66は、特に射出成形プロセスに適しています。特性としては、強度、剛性、耐久性、高融点、優れた表面潤滑性(射出成形にとって重要)、耐摩耗性、および多くの化学物質、機械油やモータオイル、溶剤、ガソリンに対する耐性を兼ね備えています。また、PA66は比較的安価で、非ハロゲン化物質です。PA66で作られた部品は、SAE J1639の要求事項を満たしています。

 さらに、PA66/6は非ハロゲン化物質であり、UL94V-0定格を必要とするアプリケーションにも使用可能です。その機械的特性はPA66に似ていますが、低温耐久性が改善されています。PA66と比較して、より良い表面仕上げと色安定性を備えています。PA66/6は、SAE J1639の要求事項も満たしています。

実装タイプ

 プリント基板サポートは、材料の選択だけでなく、実装タイプの指定や、プリント基板に取り付けるための固定方法も重要な検討ポイントです。どちらについても、多くの選択肢があります。代表的な実装タイプを図2に示します。各タイプについて以下に説明します。

(1) ネジ式:これには、ワッシャとナットで固定する標準的な設計のものと、ワッシャやナットが不要なセルフタッピンのものがあります。
(2) スナップフィット:シャーシやパネルの穴に素早く押し込めてしっかりと固定できます。バリエーションとしては、エッジロック、バヨネット、ファーツリーなどがあります。
(3) スナップロック:これもシャーシやパネルの穴に押し込みますが、簡単に取り外すことができます。
(4) 圧入、ブラインドアタッチメント:フィンを使ってしっかり固定できます。特に、スペースに制約のあるアプリケーションに適しています。
(5) テープの裏の粘着剤:取り付け穴が要りません。


図2:プリント基板サポートとパネルやシャーシを接続する5つの方法(画像提供:Essentra Components)

プリント基板の固定方法

 同様に重要な2番目の設計上の決定事項は、プリント基板の固定方法の選択です。パネル実装タイプと同様に、固定方法にもさまざまな選択肢があります。図3に具体例を示します。

(A) 双脚スナップフィット付きの双脚のスナップロック:一方の側はロックされます。もう一方の側は取り外し可能で、プリント基板をスタックしたりシャーシに接続したりできます。
(B) バヨネットノーズスナップフィットの矢じりスナップロック:非常にしっかりと保持でき、スタック用途において迅速な組み立てを可能にします。
(C) フラットレスト実装:クイックリリースタブ付きの粘着性プリント基板サポートです。
(D) 六角ナット/ネジ式:六角ナットでしっかりと取り付け、反対側には取り外し可能な薄型のファスナーを備えています。
(E) リバースデュアルロッキング/スナップフィット:プリント基板にしっかりと接続するためのスナップフィットを提供します。ボタンヘッドを薄くすることで出っ張りを抑え、シャーシの裏側から取り付けることができます。


図3:基板にサポートを固定するためのいくつかの選択肢。 (画像提供:Essentra Components)

プリント基板サポートの例

 プリント基板サポートの選択肢には、材料や実装タイプ、固定方法などさまざまな組み合わせがあるため、一概に紹介することはできません。以下は、Essentra Componentsが提供する数百の選択肢の一部です。

 CRLCBSRE-10-01はナイロン66で作られ、UL94V-2に適合しており、上記の図3では部品Eの類似品です。上部は4mm、下部は5.4mmの穴にフィットします。スペーサーの全長は15.9mmです。

 PSM-10-01もナイロン66を使って作られています。片側にフラットレスト(平らな台)があり、反対側には0.125インチの穴に嵌るロック式の矢じり(図3の部品「B」の上部と類似)があります。矢じりの長さは0.130インチ、スペーサーの長さは15.9mm(0.625インチ)です。厚さ0.078インチまでのパネルにフィットするように設計されています。

 RLEHCBS-7-01BKは、黒のナイロン66で作られたリバースマウントのエッジ保持用サポートであり、厚さ0.062インチのパネルの0.375×0.313インチの下穴に取り付けます(図4)。上部ボードには0.156インチの穴があり、0.062インチのパネルにロックされます。スペーサーの長さは0.500インチです。

       
図4:RLEHCBS-7-01BKは、プリント基板に固定するためのエッジ保持用サポートを備えています。(画像提供:Essentra Components)

UL 94V-0またはV-2の選択、および別の設計用選択肢

 次のサポートは、PA66/6版とPA66版があります。

 片側に取り付け穴、反対側にロック用矢じりの付いたフラットマウントが必要な場合は、UL 94V-2準拠のCBSS-10-01(図5)とUL 94V-0準拠のCBSS-10-19からお選びいただけます。

          
図5:CBSS-10-01は、片側にロック式の矢じり、もう片側に穴の開いたフラットマウントを持つサポートの例です。(画像提供:Essentra Components)

 図3のAのようなスペーサーが必要なアプリケーションの場合は、UL 94V-2準拠のMSPM-5-01、またはUL 94V-0準拠のMSPM-5-19をご利用いただけます。

 また、図3のBのような設計が必要なアプリケーションの場合は、UL 94V-0準拠のLCBS-2-12-19やUL 94V-2準拠のLCBS-2-12-01をご検討ください。

まとめ

 ご説明してきたように、プリント基板サポートは、さまざまな形状や大きさのものがあり、材料も数種類用意されています。それらの選択肢に加えて、アプリケーションの要求事項として効率的で信頼性の高い組み立てをサポートしなければならないとなると、プリント基板サポートの選択は困難を極めることになります。

 ほとんどの場合、設計者への最善のアドバイスは、アプリケーションに適していると思われる選択肢を1つ以上選択し、試用してみてアセンブリ要求事項全体を最もよくサポートする選択肢を決定することです。

お勧めの記事
(1) 高密度で柔軟な相互接続を使用して、小型で高性能な患者モニタリング機器を設計
(2) ダイレクトプラグインタイプの圧接コネクタを使用したアセンブリの簡素化と部品点数の削減
(3) ワイヤ対基板間コネクタのメリットを超小型設計に活かす方法




免責条項:このウェブサイト上で、さまざまな著者および/またはフォーラム参加者によって表明された意見、信念や視点は、DigiKey Electronicsの意見、信念および視点またはDigiKey Electronicsの公式な方針を必ずしも反映するものではありません。

 

このページのコンテンツはDigiKey社より提供されています。
英文でのオリジナルのコンテンツはDigiKeyサイトでご確認いただけます。


DigiKey社の全製品は 1個からマルツオンラインで購入できます

※製品カテゴリー総一覧はこちら



ODM、OEM、EMSで定期購入や量産をご検討のお客様へ【価格交渉OK】

毎月一定額をご購入予定のお客様や量産部品としてご検討されているお客様には、マルツ特別価格にてDigiKey社製品を供給いたします。
条件に応じて、マルツオンライン表示価格よりもお安い価格をご提示できる場合がございます。
是非一度、マルツエレックにお見積もりをご用命ください。


ページトップへ