厳しい環境下でBLDCモータ駆動の熱性能を最適化する方法
著者 Jeff Shepard(ジェフ・シェパード) 氏
DigiKeyの北米担当編集者 提供
2023-05-04
マルツ掲載日:2023-08-07
ブラシレス直流(BLDC)モータは、電気自動車(EV)などの自動車環境、ロボットや製造装置などの産業用途において、厳しい温度条件下で使用されることが多くなってきています。設計者にとって、BLDCモータドライブの信頼性を確保するために、効果的な熱管理は重要な検討事項です。
このため、パワーMOSFETとゲートドライバICでは、スイッチング周波数、効率、動作温度範囲、フォームファクタに特に注意を払う必要があります。また、AEC-Q101、生産部品承認プロセス(PPAP)、該当する場合は国際自動車タスクフォース(IATF)の16949:2016などの規格に適合していることを確認する必要があります。
さらに、ゲートドライバは、マイクロコントローラ(MCU)とのインターフェースを容易にするために、標準的なTTLやCMOSの電圧レベルに対応する必要があります。また、さまざまな障害条件からMOSFETを保護できることや、効率的に高周波における動作をサポートするために伝播遅延をうまく調整することも必要です。
このようなニーズに応えるため、デュアルNチャンネルエンハンスメントモードMOSFETと高周波ゲートドライバICを組み合わせることで、コンパクトで効率的なソリューションを実現できます。
この記事では、まずBLDCモータドライブを設計する際に考慮すべき熱管理の概要を説明し、次にAEC-Q101、PPAP、IATF 16949:2016の要件を簡単にご紹介します。そして、車載用や産業用のBLDCモータ駆動システムに適した、Diodes Incの高性能デュアルNチャンネルエンハンスメントモードMOSFETとマッチングゲートドライバICの例を取り上げます。最後に、電磁妨害(EMI)の最小化や熱性能の最適化など、BLDC駆動回路のプリント基板レイアウトに関する考察をご紹介します。
BLDCと整流
BLDCとブラシ付きモータの決定的な違いは、BLDCでは整流を実現するためにMCU制御が必要であることです。そのためには、ローターの回転位置を検出する機能が必要です。位置検出には、電流センス抵抗器やホール効果センサを使用することができます。ホール効果センサを軸の周りに、互いに120°の距離でモータ内部に配置することは、位置センシングを行うための一般的で正確かつ効率的な方法です。
この方式では、6個のパワーMOSFETをブリッジ構成にして、3相BLDCモータを駆動します。ホール効果センサはデジタル信号を生成し、MCUはデジタル信号を使用してモータの位置を決定します。そして、MCUは駆動信号を生成し、MOSFETを必要なシーケンスと速度で切り替え、モータの動作を制御します(図1)。制御性の高さは、BLDCモータを使うことの大きなメリットです。
図1:3相BLDCモータでは、6個のパワーMOSFETのスイッチング制御に必要な位置情報を3個のホール効果センサが提供します。(画像提供:Diodes Inc.)
伝播遅延への対応
MCUが出す制御信号はパワーMOSFETを直接駆動するには弱すぎるため、MCUの信号を増幅するゲートドライバICを使用します。しかし、ゲートドライバICを導入すると、制御信号の伝播遅延がある程度発生します。また、ハーフブリッジゲートドライバの2つのチャンネルは、反応時間が微妙に異なるため、伝播遅延スキューが発生します。
最悪の場合、ローサイドのスイッチが完全にオフになる前にハイサイドのスイッチがオンになり、両方のスイッチが同時に導通することがあります。このような場合、短絡が起こり、モータドライブ回路やモータが破損したり、破壊されたりする可能性があります。
伝播遅延の問題に対処する方法はいくつかあります。1つは、伝播遅延を補うために十分な速さで反応できる高速なMCUを使用することです。この方法の潜在的な問題点は、より高価なMCUが必要になることと、2つのスイッチが同時にオンにならないようにMCUがスイッチングプロセスにデッドタイムバンドを導入することです。このデッドタイムが、スイッチングプロセス全体を遅らせます。
ほとんどのアプリケーションでは、伝播遅延の短いゲートドライバを使用することが望ましいとされています。また、高性能ゲートドライバICは、クロス導通防止ロジックを搭載し、システムの信頼性をさらに高めています(図2)。
図2:高性能ゲートドライバICは、伝播遅延を最小限に抑え、クロス導通防止ロジック(中央左)を搭載しています。(画像提供:Diodes Inc.)
冷却の重要性
BLDCモータの信頼性を高めるためには、パワーMOSFETを安全かつ正確に駆動することが重要であり、パワーMOSFETを冷却することも重要です。パワー半導体の熱管理に関する重要な仕様として、接合部-ケース間熱抵抗(RθJC)と接合部-周囲間熱抵抗(RθJA)があります。
いずれも1Wあたりの摂氏温度(℃/W)で表示します。RθJCはデバイスやパッケージに依存します。ダイサイズ、ダイアタッチ材、パッケージの熱特性などの要素に依存する固定量です。
RθJAは、RθJCに加え、はんだ接合部やヒートシンクの温度係数を含む、より広範な概念です。パワーMOSFETの場合、RθJAはRθJCの10倍になることもあります。MOSFETのパッケージ(ケース)温度(TC)をコントロールすることが重要なポイントになります(図3)。
つまり、パワーMOSFETの熱管理ソリューションを開発する際には、基板レイアウトやヒートシンクなどの要素が非常に重要になります。MOSFETで発生した熱のほとんどは、プリント基板上の銅パッドやヒートシンクを通して放熱されます。
図3:RθJAは熱放散の重要な指標であり、RθJCの10倍になることもあります。(画像提供:Diodes Inc.)
車載用規格
また、車載アプリケーションで使用するためには、AEC-Q100、AEC-Q101、PPAP、IATF 16949:2016など、1つ以上の業界標準を満たす必要があります。AEC-Q100、AEC-Q101は、車載アプリケーションで使用される半導体デバイスの信頼性規格です。PAPPは文書とトラッキングの規格、IATF16949:2016はISO9001ベースの品質規格です。下記に各規格の詳細を記載します。
AEC-Q100は、パッケージICの故障メカニズムに基づくストレス試験で、次の4つの周囲動作温度範囲(グレード)があります。
・グレード0:-40℃~+150℃
・グレード1:-40℃~+125℃
・グレード2:-40℃~+105℃
・グレード3:-40℃~+85℃
AEC-Q101は、パワーMOSFETなどのディスクリートデバイスのストレス試験に基づく最小限の要件・条件を定義し、-40℃から+125℃までの動作について規定しています。
PPAPは、新しい部品や変更された部品に対する18項目の承認プロセスです。部品が一貫して指定された要件を満たしていることを保証するために規定されています。PPAPには5つの標準提出レベルがあり、要件はサプライヤと顧客との間で交渉されます。
IATF16949:2016は、ISO9001をベースにした車載用品質システム規格であり、車載部門からの顧客固有の要求事項が含まれています。この規格は、第3者監査人による認証が必要です。
デュアルパワーMOSFET
効率的なBLDCモータ駆動を実現するために、設計者は、産業用アプリケーションにはDiodes Inc.のDMTH6010LPD-13、車載用アプリケーションにはAEC-Q101に準拠したDMTH6010LPDQ-13などのデュアルNチャンネルエンハンスメントモードFETを使用できます。どちらの部品もPPAPでサポートされ、IATF 16949認証施設で製造されています。
これらのMOSFETは、2615pFという低い入力容量(Ciss)で高速スイッチングに対応し、11mΩという低いオン抵抗(RDS(on))で高い変換効率を実現します。これらの特長により、高周波で高効率のアプリケーションに適しています。
これらのデバイスは、10Vのゲート駆動、+175℃までの動作定格で、5mm×6mmのPowerDI5060-8パッケージで提供されます。PowerDI5060-8パッケージは、高い熱放散性を実現する大きなドレインパッドを備えています(図4)。熱仕様は次の通りです。
・2オンス銅を使用し、1インチ角の銅板からなる底層にサーマルビアを設けたFR-4プリント基板にデバイスを実装した場合、53℃/Wの定常状態RθJAを達成
・4℃/WのRθJC
・+175℃までの動作定格
図4:DMTH6010LPD-13とDMTH6010LPDQ-13は、PowerDI5060-8パッケージの大きなドレインパッドを利用して、高熱放散をサポートしています。(画像提供:Diodes Inc.)
デュアルMOSFETゲートドライバ
デュアルパワーMOSFETの駆動には、産業アプリケーション向けのDGD05473FN-7と、車載システム向けのAEC-Q100準拠のDGD05473FNQ-7の2つのハーフブリッジゲートドライバを使用することができます。また、これらのドライバはPPAPでサポートされ、IATF16949認証施設で製造されています。
入力は、MCUとの接続を容易にするため、TTLおよびCMOSレベル(最小3.3V)に対応し、フローティングハイサイドドライバは50Vの定格電圧に対応しています。保護機能としては、UVLOやクロス導通防止ロジックを搭載しています(図2を参照)。また、ブートストラップダイオードを内蔵しているため、プリント基板面積を最小限に抑えることができます。その他の特長は次の通りです。
・20nsの伝播遅延
・5nsの最大遅延整合
・1.5Aソースと2.5Aシンクの最大駆動電流
・1μA未満のスタンバイ電流
・AEC-Q100グレード1の動作温度範囲(-40℃~+125℃)
熱およびEMIに関する考慮事項
上記のMOSFETとドライバICを使用した基板レイアウトのベストプラクティスは、コンパクトな設計とMOSFETの実用的な最大銅面積を組み合わせることです。これにより、可能な限り最高の熱放散を確保することができます。コンパクトな設計により、ループエリアを最小限に抑えることができます。同時に、短い配線長はEMIを最小限に抑え、電磁両立性(EMC)の懸念を低減します。
EMCと熱性能をさらに向上させるために、プリント基板に強固な内部グランドプレーンと底面の追加電源プレーンを含める必要があります。また、信号ラインには別の内層を使用する必要があります。
MOSFETのパッケージは、熱性能に大きな影響を与えます。PowerDI5060-8、3mm×3mmのPowerDI3333-8、2mm×2mmのDFN2020-6の3つの選択肢を見ると、ドレインパッドが最も大きいPowerDI5060が2.12Wと最も高い電力消費をサポートしていることがわかります(図5)。
図5:PowerDI5060(青線)は、2つの小型パッケージと比較してより多くの電力を消費します。(画像提供:Diodes Inc.)
まとめ
熱効率の高いパッケージに収められたデュアルパワーMOSFETは、マッチングゲート駆動ICと組み合わせることで、車載および産業アプリケーション向けの高性能かつコンパクトなBLDCモータドライブを実現します。
これらのソリューションは、それぞれ信頼性、文書、品質に関するAEC、PPAP、IATF規格を満たすことができます。プリント基板レイアウトのベストプラクティスを用いて、BLDCモータドライブの実装に最適な熱およびEMC性能を実現することが可能です。
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