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【問7】クロックの偶数波が大きいときは電源バスを疑え ~放射スペクトラムに放射源の特徴が表れる~ 

クロックの偶数波が大きいときは電源バスを疑え
~放射スペクトラムに放射源の特徴が表れる~

●問7 [レベル:中級]
放射エミッションの計測で,クロック周波数の偶数次の高調波が,奇数次の高調波より高いとき,主だった放射源はどこと推定されるでしょうか?

(a) クロック
(b) データ線,信号線など
(c) ケーブル
(d) 電源バス(power bus)
 
 
 
  ●即答
 正しい答えは(d)です.
 プリント基板の電源バスのノイズの狭帯域成分は,通常クロック周波数の2倍となる基本周波数をもちます.理由は,LレベルからHレベル,HレベルからLレベルに信号が遷移するとき電源バスから引き出される電流がどちらも同一極性(方向)となるからです(1)
 時間領域のクロック信号の1周期には,少なくとも極性(方向)の異なる2つの遷移がありますが,それに対応する電源バス電流では同一極性(方向)の2つの遷移が表れます.これはクロック周期の2分の1,すなわちクロック周波数の2倍の周期信号に似たものとなります.
 図1は,ある放射エミッション測定結果を示すもので,電源バス・ノイズからの放射エミッションが25MHzクロックからのエミッションより強いことを示しています.さらに,25MHzの偶数次高調波が,奇数次高調波よりも高くなる傾向が見て取れます.クロック信号から出る放射は,通常,奇数次高調波が偶数次高調波より高くなります.このことは特に低い高調波(第15次高調波程度まで)でよく当てはまります.
 データ信号に起因する放射は,データそのものに強く依存します.クロック信号からの放射に類似することもありますが,高調波成分の識別も難しい広帯域となることもあります.
 放射エミッションにおいて,ケーブルは重要な役割を担います.特に100MHz以下でそれは顕著です.しかし,ケーブルからの放射で,偶数次高調波が奇数次高調波より効率よく放射されることになるという性質は存在しません.< 訳 櫻井 秋久>

●訳注
(1)CMOSの貫通電流(shoot-through current)によるもの.信号の立ち上がりと立ち下がりの両方の遷移タイミングで,上下のMOSFETが同時にON状態を維持する期間,電源からグラウンドに流れる(図2)
 
図1 25MHzのクロック信号をもつ基板
の放射スペクトラム
図2 CMOS回路とその貫通電流

 本稿は,2017年3月17日~2020年末の約3年間にわたり,米クレムソン大学名誉教授Todd Hubing氏が「今週のEMC問題」と題して,自社Webサイトに掲載した記事の翻訳です.本質的かつ実用的な問題が多く,世界中の回路基板設計者に愛読されています.
 高速化するディジタル・システムの電磁両立性(EMC,Electro-Magnetic Compatibility)をいかに実現するかは,技術者の本質的なテーマであり,多くの現場でカット・アンド・トライによる対策が行われ続けています.
 本メルマガでは,基本的ものから高度なものまで,マクスウェルの理論に基づいて,EMCの正しい対策を確信的に示します.なお本連載は,書籍化を予定しています.

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