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【問8】インダクタンスは電流ループが生む性質 ~電流経路全体のインダクタンスを分割して表した部分インダクタンス~

インダクタンスは電流ループが生む性質
~電流経路全体のインダクタンスを分割して表した部分インダクタンス~

●問8 [レベル:中級]
幅2cm,長さ10cm,厚さ2mmのグラウンド・ストラップのインダクタンスの大きさは?

(a) 100nH
(b) 55nH
(c) 50nH
(d) 決められない
 
 
 
  ●即答
 正しい答は(d)です.
 インダクタンスは,電流のループ(閉路)が生む性質です.電流ループが分からない状態で,グラウンド・ストラップのインダクタンスを知るために,ループの一部分としてインダクタンスを割り当てることは,混乱や誤解を与えることになりかねません.しかしながら,たとえループの形状が完全に分かっていない状態でも,ループ全体のインダクタンスに対するその部分の寄与を,ループが複数の枝(branch)から成ると考えたときの枝のインダクタンス(1)として有用な情報を伝えることが可能な場合があります.
 例えば,一般的な経験則(general rule-of-thumb)では,十分に広がった(ループ各部の相互作用が無視できる程度の)ループのある一部分の寄与は,1nH/mmのオーダのインダクタンスになります.したがって,このグラウンド・ストラップの場合,インダクタンスは100nHのオーダになります.

近似式
 ループの形状が円形,あるいは4辺からなる正方形とすると,ループの枝それぞれのインダクタンスを求めるもう少し正確な式を利用することできます.次に示すのは,グラウンド・ストラップの枝インダクタンスの近似式です. \begin{align} L\approx 0.002 \times l \times \ln { \left( \frac {2 l } {w } \right) } \mu \mathrm{H} \end{align}ただし,\begin{align} l:ストラップの長さ[cm], w:ストラップの幅[cm] \end{align}この式から近似値として46nHが得られます.

有名な計算式
 “the Radio Engineers Handbook (F.E. Terman, 1945)”に,よく知られたグラウンド・ストラップのインダクタンスを求める次の式が示されています.\begin{align} L\approx 0.002 \times l \left[ \ln { \left( \frac {2 l } {w;t } \right) } + 0.5 + 0.2235 \left( \frac{w+t } { l } \right) \right] \mu \mathrm{H} \end{align} ただし,\begin{align} l:ストラップの長さ[cm], w:幅[cm], t:厚み[cm]\end{align} これは,ストラップの自己部分インダクタンス(self-partial inductance)を表す式です.ループの各枝がもつ自己部分インダクタンスと相互部分インダクタンスを足し合わせると,ループ全体のインダクタンスになります.
 自己部分インダクタンスは,グラウンド・ストラップのインダクタンスを意味しませんが,常に枝のインダクタンスよりは大きくなるので,枝インダクタンスの最悪ケースのざっくりとした見積もりに使うことは可能です.
 この式を使って,この問のグラウンド・ストラップの自己部分インダクタンスを計算すると55nHになります.
 グラウンド・ストラップが折り畳まれていたり,他の電流ループを形成する導体の傍に置かれていたりすると,上式は使うことができません.電流ループの形状がわからなければ,グラウンド・ストラップのインダクタンスを決めることはできません(かなり正確性の低い計算結果になる). < 訳 櫻井 秋久>
 

図1 ループになっていないグラウンド・ストラップの
インダクタンスをざっくり見積もりたい

訳注
(1)枝インダクタンスとは,電流ループを分割して複数の枝で構成したときの枝に付随するインダクタンスのこと

 本稿は,2017年3月17日~2020年末の約3年間にわたり,米クレムソン大学名誉教授Todd Hubing氏が「今週のEMC問題」と題して,自社Webサイトに掲載した記事の翻訳です.本質的かつ実用的な問題が多く,世界中の回路基板設計者に愛読されています.
 高速化するディジタル・システムの電磁両立性(EMC,Electro-Magnetic Compatibility)をいかに実現するかは,技術者の本質的なテーマであり,多くの現場でカット・アンド・トライによる対策が行われ続けています.
 本メルマガでは,基本的ものから高度なものまで,マクスウェルの理論に基づいて,EMCの正しい対策を確信的に示します.なお本連載は,書籍化を予定しています.

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