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【問15】インダクタンスを見積もる インダクタンスと外部インダクタンス

インダクタンスを見積もる
~インダクタンスと外部インダクタンス~
[原著] EMC Question of the Week 2017-2020
[著] Todd Hubing (LearnEMC社代表,米クレムソン大学名誉教授)
[訳] 櫻井 秋久
[企画・制作] ZEPエンジニアリング
 
 
 
問15 [レベル:基本]
あなたの手首に1回巻かれたワイアのインダクタンスは,どのくらいの大きさになりますか? 最適な答えを選んでください.
 (a) 数百 nH
 (b) 数nH~数H
 (c) ループ面積に比例する
 (d) 手首の直径に比例する
 
 
 
 

●即答
 最適な答えは(a)です.「最適」という言葉は主観的なので,最後の選択候補の(d)から,可能な答えを順に検討していきましょう

●答え(d)を考察
 円形ループ状のワイアの外部インダクタンス(external inductance)は,次式で表されます.
\begin{equation} L_{circle}=R\mu \left[ \ln{\left( \frac{8R}{a} \right)} -2) \right] \end{equation}  
ただし,Rはループ半径,αはワイアの半径です.この式は,外部インダクタンス(1)が,「ループ半径」と「ループ半径の自然対数」の積に比例することを示しています.
 ループ直径に比例するためには,ループ半径に比例しなくてはなりません.したがって(d)の選択は正しくありません.しかしながら,円形ループの直径が大きくなると,そのインダクタンスも大きくなる,ということは覚えておく価値はあります.

●答え(c)を考察
 「インダクタンスはループ面積に比例する」と聞くことは珍しくありません.しかし,上に述べたように,円形ループの外部インダクタンスは,ループ半径とループ半径の自然対数の積に比例します.一方,ループ面積は半径の2乗に比例します.

●答え(b)を考察
 この選択は,インダクタンスとしてあり得る値を提示しています.EMCの仕事をするうえにおいて,あり得る値を知っておくことが,計算の仕方を知っているより,おおいに役立つことがよくあります.
 ここで提示された値の範囲(数nH~数H)と,あなたの手首に1巻きされたワイアがもつ可能性のあるインダクタンスと比べてみましょう(図1)
 低いほうの値について,とても小さな手首(R=2cm)と太いワイア(α=5mm)を仮定すると,インダクタンスの計算値は約36nHになります.したがって,もうワイアとは呼べない形状のワイド・ストラップを使うことなしに,数nHの値を得ることはできません(2)
 また,高いほうの値に関しては,ワイアの半径を単純にどんどん小さくしていけば,求める高い値のインダクタンスを得ることができます.極限としてワイアの半径が 0 に達すれば,インダクタンスは無限大になります.  したがって,(b)の選択は,(c)や(d)の選択と同じ程度に正確とも不正確とも言えます.

●答え(a)を考察
 一般的なワイア(24ゲージ,α=0.255mm)を一般的な大きさの手首(R=3.5cm)に1巻きしたときのインダクタンスを計算すると,Lcircle=220nHが得られます.
 手首を小さく(R=3cm),ワイアを太く(12ゲージ,α=1.026mm)とすると,Lcircle=130nHになります.逆に手首を大きく(R=4cm),ワイアを細く(32ゲージ,α=0.101mm)すると,Lcircle=304nHです.
 手首の大きさとワイアの直径は異なる値を取り得るため,この問にインダクタンスの正確な値をもって回答することはできないでしょう.しかしながら,適切な大きさの手首とワイアに対して,インダクタンスが数百nH程度と見積もることはできます.
 これは厳密に正しいと言えるのでしょうか?どの選択も厳密には正しくありません.しかし,他の3つの選択とは異なり,(a)だけは合理的な見積もりを与えています.

図1 太いワイア(半径5mm)で作った半径2cmの小さなループは
36nHもの大きなインダクタンスをもつ

  ● [訳注]
(1)EMC対策においてインダクタンスの理解は極めて重要である.周波数が高くなればインピーダンス jωL が比例して大きくなり,回路動作に大きく影響を及ぼす.浮遊容量などと一緒になって共振現象を起こすこともある.
 ワイアのインダクタンスには,「外部インダクタンス」と「内部インダクタンス」がある.内部インダクタンスは,円形断面のワイア(長さ l,半径r)のとき,μl/(8π)で与えられる.比透磁率が1(空気中)のとき50nH/m程度の大きさである.周波数が高くなると,ワイアの表皮効果のため,内部インダクタンスは1/√fで低下し,「外部インダクタンス≒インダクタンス」である

 (2)わずか半径2cmととても小さなループと,半径2mmのとても太いワイヤでも,そのインダクタンスは36nHもある.数nHという微小なインダクタンスは,ループを形成していない板状の(幅の広い)導線「ワイド・ストラップ」でなければ実現できない
 


 
 本稿は,2017年3月17日~2020年末の約3年間にわたり,米クレムソン大学名誉教授Todd Hubing氏が「今週のEMC問題」と題して,自社Webサイトに掲載した記事の翻訳です.本質的かつ実用的な問題が多く,世界中の回路基板設計者に愛読されています.
 高速化するディジタル・システムの電磁両立性(EMC,Electro-Magnetic Compatibility)をいかに実現するかは,技術者の本質的なテーマであり,多くの現場でカット・アンド・トライによる対策が行われ続けています.
 本メルマガでは,基本的ものから高度なものまで,マクスウェルの理論に基づいて,EMCの正しい対策を確信的に示します.なお本連載は,書籍化を予定しています.

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