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【問25】キャパシタの重要な特性ESL ~データシートの記載値は計測法で変化~

キャパシタの重要な特性 \(ESL\)
~データシートの記載値は計測法で変化~
[原著] EMC Question of the Week 2017-2020
[著] Todd Hubing (LearnEMC社代表,米クレムソン大学名誉教授)
[訳] 櫻井 秋久
[企画・制作] ZEPエンジニアリング
 
 
 
問25 [レベル:基本]
 SMT(Surface Mount Technology)セラミック・キャパシタのデータシートに記載されている「等価直列インダクタンス(\(ESL\);Equivalent Series inductance)」の値について,一般的に正しい理解はどれでしょうか?

 (a) 公称静電容量値よりも大切
 (b) キャパシタの高周波特性を特徴づける
 (c) (a)と(b)の両方が正しい
 (d) あまり意味がなく,無視したほうがよい
 
 
 
  ●即答
 最適な答えは(d)です.

 SMTセラミック・キャパシタの高周波特性は,等価直列インダクタンス\(ESL\)によって大きく左右されるのは事実ですが,このインダクタンスは,キャパシタが接続される回路に大きく依存します.

 キャパシタのデータシートに記載された\(ESL\)の値は,実際に実現可能なインダクタンスよりも通常はるかに小さな値です.また,この\(ESL\)値を定義する標準的な方法がないため,異なるメーカのキャパシタをデータシート上で比べることはできません.そもそもインダクタンスは電流ループが生み出す特性ですから,電流ループの中の一部分であるキャパシタのインダクタンスを決めることはできません.

 \(ESL\)値は一般に、キャパシタを含む回路のインダクタンスの測定値を、同じ回路でキャパシタを短絡したときのインダクタンスと比較することによって与えられます.しかし,電流ループのインダクタンスは,ループの部分の総和として与えられるものではないので,この方法には重大な欠陥があります(1).結果的に,データシートに記載されたESL値は,キャパシタが使われている状況や装置に大きく依存します.

 以上のように,データシートに記載されている\(ESL\)値と,実際の応用においてキャパシタの高周波インピーダンスを決定する接続インピーダンスの間には,事実上何の相関関係もありません.ただし,接続インダクタンスはSMTセラミック・キャパシタの高周波インピーダンスに影響を与える最も重要なパラメータであることに変わりありません.

 接続インダクタンスは,アスペクト比(縦横比)を逆にしたり,くし形の実装パッド(interdigitated mounting pad)を用いたりすることで,標準のキャパシタよりも大幅に低くすることができます.キャパシタの等価直列インダクタンスが無視できない応用では,データシートに公開された\(ESL\)値に頼るのではなく,個別に評価すべきです.

   図1 フェライト・ビーズは周波数によりインピーダンスが変化する  
訳注
(1)インダクタンスは電流ループ,つまり閉路がもたらす性質.例えば,10㎝の長さの導線のインダクタンスなどは,そのままでは求めることができない.インダクタンスはループの部分部分の寄与を足し算して求まるものではない.したがってキャパシタを除去,シャントして得られたインダクタンスと除去前のインダクタンスを引き算して得られるものが,キャパシタンスの\(ESL\)を表すとはいえない.


 
 本稿は,2017年3月17日~2020年末の約3年間にわたり,米クレムソン大学名誉教授Todd Hubing氏が「今週のEMC問題」と題して,自社Webサイトに掲載した記事の翻訳です.本質的かつ実用的な問題が多く,世界中の回路基板設計者に愛読されています.
 高速化するディジタル・システムの電磁両立性(EMC,Electro-Magnetic Compatibility)をいかに実現するかは,技術者の本質的なテーマであり,多くの現場でカット・アンド・トライによる対策が行われ続けています.
 本メルマガでは,基本的ものから高度なものまで,マクスウェルの理論に基づいて,EMCの正しい対策を確信的に示します.なお本連載は,書籍化を予定しています.

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