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【問32】電流リターン経路を分ける「グラウンドの分離」は慎重に ~共通インピーダンス結合は周波数で考える~

電流リターン経路を分ける「グラウンドの分離」は慎重に
~共通インピーダンス結合は周波数で考える~
[原著] EMC Question of the Week 2017-2020
[著] Todd Hubing (LearnEMC社代表,米クレムソン大学名誉教授)
[訳] 櫻井 秋久
[企画・制作] ZEPエンジニアリング
 
 
 
問32 [レベル:基本]
低周波アナログ信号の帰路をディジタル信号の帰路から分けることがありますが,これは何を防ぐためでしょうか?
 (a) 渦電流
 (b) 電界結合
 (c) 共通インピーダンスによる結合
 (d) 1点接地(single-point ground)
 
 
 
  ●即答
 正しい答えは(c)です.

 高い電流値をもつ回路と高感度の回路が,信号電流帰路(リターン経路)を共有すると,「共通インピーダンス(伝導性)結合」が生じます.この結合構造は,電流帰路を分けることで取り除くことができますが,回路のグラウンドが分離されるので,別のEMC問題が発生することがあります.

 一般に回路のグラウンドの分離(あるいは1点接続)を採用してよいのは,その必要性が明確なときだけです.図1は,影響を受けやすい(高感度の)低周波の帰路を配線トレースで設けることで,ディジタルの帰路(プレーンで与えられている)から分けた例です.

 2つの信号電流帰路を分離する必要があるかどうかをどのように判断すればよいでしょうか?

 まず,最悪ケースの電流値と共有部分の抵抗値を掛け合わせて,被害を受ける回路に誘起する可能性のある最大電圧を求めます.その値が大きすぎる場合は,帰路の分離が必要と考えることができます.

 電流帰路が面(プレーン)で与えられている回路基板では,100kHzを超える信号が,共通インピーダンスによって結合する心配は要りません.これは,信号配線トレースの真下(プレーンの位置によりあるいは真上)の領域(1)にプレーンを流れるリターン電流のほとんどが閉じ込められるからです.

 さらに低い周波数では,リターン電流は広がり,プレーンを共有する2つの回路のうちの一方のリターン電流が数Aであれば,他方で数mVのノイズが誘起される可能性があります.

  図1 低周波アナログ信号の電流帰路とディジタル信号の電流帰路を
分ける理由は,共通インピーダンスによる結合を減らすため
 
     
訳注
(1)トレースとプレーンの位置関係.多層基板ではグラウンド・プレーンが上で,トレースが下ということがあり得るため,真下(直下),真上(直上)と表現している.


 
 本稿は,2017年3月17日~2020年末の約3年間にわたり,米クレムソン大学名誉教授Todd Hubing氏が「今週のEMC問題」と題して,自社Webサイトに掲載した記事の翻訳です.本質的かつ実用的な問題が多く,世界中の回路基板設計者に愛読されています.
 高速化するディジタル・システムの電磁両立性(EMC,Electro-Magnetic Compatibility)をいかに実現するかは,技術者の本質的なテーマであり,多くの現場でカット・アンド・トライによる対策が行われ続けています.
 本メルマガでは,基本的ものから高度なものまで,マクスウェルの理論に基づいて,EMCの正しい対策を確信的に示します.なお本連載は,書籍化を予定しています.

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