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【問36】「1点接続対策」は電圧基準の共有のためにある ~リターン電流の1点接続がEMCに有効に働く理由はない~

「1点接続対策」は電圧基準の共有のためにある
~リターン電流の1点接続がEMCに有効に働く理由はない~
[原著] EMC Question of the Week 2017-2020
[著] Todd Hubing (LearnEMC社代表,米クレムソン大学名誉教授)
[訳] 櫻井 秋久
[企画・制作] ZEPエンジニアリング
 
 
 
問36 [レベル:中級]
 アプリケーション・ノートによっては,2つ以上の信号電流を単一の共通点に戻すことを推奨していますが,その理由はどれでしょうか?
 (a) 各信号に同じ0V基準を与えるため
 (b) 共通インピーダンスの結合を減らすため
 (c) グラウンド・ループを除くため
 (d) アプリケーション・ノートはEMCに関する情報源として不正確なことが多いから
 
 
 
  ●即答
 最適な答えは(d)です.

 アプリケーション・ノートの中には,EMCの問題に向けたレイアウトに関するアドバイスが書かれたものがありますが,残念ながら,間違っていることが少なくありません.間違ったアドバイスに共通するテーマは,次の2つであるように思われます.
 ・電流リターンの1点接続
 ・高周波におけるグラウンドの分離
どちらも,電流リターン導体の役割とグラウンドの役割を混同してしまうというものです.

 グラウンドへの1点接続(スター接続)は有効な概念です.これにより,独立した電流リターンをもつ複数の回路が,同じ0V基準を共有できます.一方,電流リターンを分離する目的は主に,低周波で共通インピーダンスを減らすことです.1点で接続されたグラウンド導体に,信号電流や電源電流が流れこまないように留意が必要です.

 電流リターンの1点接続は,グラウンド導体と電流リターン導体を混同したときに起こり得ます.異なる信号のリターン電流を同一点に配線して,共通インピーダンス結合を強める,というのはよくない考えです.(1)

 グラウンドと電流リターンの役割については,LearnEMCウェブサイトの[EMC resources]-[Grounding]のページ(https://learnemc.com/grounding)を参照してください.

 上記の問は,このアドバイスの「理由」を尋ねているだけであり,「理由」が正しいかどうかではないので,(a)~(d)の候補はすべて正しいと主張できるかもしれません.しかし「EMCの観点から」独立した信号リターンを単一の共通点に配線する正当な理由はどこにもない,ことを理解しておく必要があります.これは高周波信号において特に顕著です.


図1 高周波信号や電源のリターン電流を1点に集めてはいけない

     


 
 本稿は,2017年3月17日~2020年末の約3年間にわたり,米クレムソン大学名誉教授Todd Hubing氏が「今週のEMC問題」と題して,自社Webサイトに掲載した記事の翻訳です.本質的かつ実用的な問題が多く,世界中の回路基板設計者に愛読されています.
 高速化するディジタル・システムの電磁両立性(EMC,Electro-Magnetic Compatibility)をいかに実現するかは,技術者の本質的なテーマであり,多くの現場でカット・アンド・トライによる対策が行われ続けています.
 本メルマガでは,基本的ものから高度なものまで,マクスウェルの理論に基づいて,EMCの正しい対策を確信的に示します.なお本連載は,書籍化を予定しています.

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