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【問38】電源-グラウンド層間が大きいときはローカルにキャパシタ       ~ICに電荷を供給するのは「プリント基板+キャパシタ」~

電源-グラウンド層間が大きいときはローカルにキャパシタ
~ICに電荷を供給するのは「プリント基板+キャパシタ」~
[原著] EMC Question of the Week 2017-2020
[著] Todd Hubing (LearnEMC社代表,米クレムソン大学名誉教授)
[訳] 櫻井 秋久
[企画・制作] ZEPエンジニアリング
 
 
 
問38 [レベル:基本]
大きさが10cm×10cm,電源面-グラウンド面の間隔が0.3mm以下のプリント基板に,1個の高速スイッチング素子が実装されています.デカップリング・キャパシタの配置方法として最適なのは次のどれでしょうか?

 (a) 電源ビアを高速スイッチング素子と共有
 (b) 高速スイッチング素子から3cm以内
 (c) (a)と(b)の両方
 (d) 低インダクタンス接続であればどこでも
 
 
 
  ●即答
 最良の答えは(d)です.

 電源面とグラウンド面の層間隔の小さいプリント基板にデカップリング・キャパシタを実装する際,重要になるのは接続インダクタンスですこれを最小化する必要があります.

 (a)に関して,電源ピンとビアを共有したり,能動素子の端子に近づけすぎたりすると,接続インダクタンスは増す可能性があります.

 (b)に関して,素子とデカップリング・キャパシタ間の距離は,接続インダクタンスにほとんど影響がありません.

 「キャパシタと能動素子間の電荷移動に必要な時間を考慮するなら,デカップリングの対象素子のすぐ近くにキャパシタを実装する必要がある」と主張したい人もいるでしょう.しかし,適度なサイズのプリント基板において,一般的な表面実装型のデカップリング・キャパシタを実装する場合は,この議論は事実に合致しません.

 たとえば,電源面とグラウンド面の層間隔が0.3mm,サイズが10cm×10cmのFR-4基板の層内容量(interplane capacitance)は,遷移開始から700psの間に1.3nCの電荷(1Vの電圧変動を仮定)を供給します.適切に接続された状態で,接続インダクタンス が1nH(素子から0cm)のキャパシタは,同時に250pC未満の電荷を供給します.最初は,層内容量が電荷の大部分を供給します.最終的には,SMT(Surface Mount Technology)キャパシタが層内容量よりも多くの電荷を供給しますが,能動素子に非常に近いキャパシタが,他の離れたキャパシタより多くの電荷を供給するわけではないのです.

 もちろん,背後にある物理学を理解しないまま,デカップリングのルールに単純に従うのは危険です.層の間隔が小さい基板でも,デカップリング・キャパシタの位置が重要になる場合があります(ただし,近いほど良いとは限らない).

 電源面とグラウンド面の層間隔が小さくない場合は,「素子の近く」に実装したデカップリング・キャパシタに頼るのがベストです.この場合,キャパシタの配置は非常に重要です.詳細は,LearnEMCウェブサイトの[EMC Resources]-[EMC Tutorial Articles]-[Circuit Board Decoupling Information]を参照してください.


図1 プリント基板上に固めて置かれたデカップリングキャパシタ

     


 
 本稿は,2017年3月17日~2020年末の約3年間にわたり,米クレムソン大学名誉教授Todd Hubing氏が「今週のEMC問題」と題して,自社Webサイトに掲載した記事の翻訳です.本質的かつ実用的な問題が多く,世界中の回路基板設計者に愛読されています.
 高速化するディジタル・システムの電磁両立性(EMC,Electro-Magnetic Compatibility)をいかに実現するかは,技術者の本質的なテーマであり,多くの現場でカット・アンド・トライによる対策が行われ続けています.
 本メルマガでは,基本的ものから高度なものまで,マクスウェルの理論に基づいて,EMCの正しい対策を確信的に示します.なお本連載は,書籍化を予定しています.

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