アナログテスタの動作原理

テスタの特徴

アナログテスタとデジタルテスタの外観と特徴を写真1に示します。

デジタルテスタの特徴
●内部抵抗が高いので測定誤差(電圧ロス)が少ない
●高精度
●読み取り誤差がない

アナログテスタの特徴
●内部抵抗が低いので高インピーダンス(抵抗)の回路での電圧測定には不向き
●数値変化を読み取りやすい(デジタルは数値変化が読みにくい)
●メータの反応が早いので直感的な判断に適する


デジタルテスタは初心者でも扱いが容易なことも特徴の1つですが、アナログテスタは動作 原理を知っておくことが重要です。
また、動作原理を理解することによりアナログテスタの特徴を生かすことが出来ます。そこで、簡単にアナログテスタの動作原理を解説します。

各測定は直流電流を用いている


アナログテスタは直流電流計を用いている

アナログテスタは表示が「アナログメータ」ですがこのメータは「直流電流計」です。 この電流計により直流電圧、直流電流、交流電圧、抵抗値を表示させますが、電圧、抵抗などはそのまま直流電流計に接続することは出来ません。
そこでアナログテスタでは電圧、抵抗測定時に内部にて直流電流に変換しています。

直流電圧の測定原理

電流計の振れ


電流計の内部抵抗

電流計は電流が流れることによりメータ(針)が振れますが、例えば「1mA」の電流計は1mA流れた場合に「フルスケール」になります。

また、図3のように電流が流れると電流計のプラス端子、マイナス端子の間に電圧が発生し、 このことは電流計にも抵抗分があるということで、これを電流計の「内部抵抗」と言います。 電流計の中身はコイルですが、この抵抗分が内部抵抗です。

電流計にも抵抗分がある(内部抵抗)

例えば図4のように50Ωの内部抵抗をもつ1mAの電流計に1Vの電圧を印加したとします。この場合、抵抗が50Ωですから流れる電流はオームの法則により→

20mA流れますから、メータはフルスケールを超えて振り切れてしまいます。

50Ωの内部抵抗の電流計に1Vを加えると

今度は図5のように抵抗Rxを追加して電圧を印加します。 Rx = 950Ωとすればメータの内部抵抗Rmを含んだ抵抗は 950Ω+50Ω=1000Ωになり、 1Vの電圧を印加すると流れる電流は→

丁度、1Vを印加すると電流は1mAとなり、メータもフルスケールの位置に振れます。
また、印加する電圧値により電流値もかわりますから、これに応じたメータ位置になります。
あらかじめ、電圧値に応じた目盛を付けておけば未知電圧を測定することが出来ます。 このようにRxを適当な値に選んで追加すれば電流計により電圧を測ることができ、これがアナログテスタによる直流電圧の測定原理です。

Rx=950Ωの抵抗を追加する

測定レンジの拡大

図5では1Vを印加するとメータがフルスケールになりましたが、1Vを超える電圧値では 振り切れます。
1V以外にレンジを拡大するには図6のような「倍率器」と呼ばれる抵抗を用います。

例えば、3Vレンジで3V印加した時に1mA流れればフルスケールになりますから、必要な抵抗は 3V / 1mA = 3000Ω です。Rx + Rm = 1000Ωですから、合計3000Ωとなるためには R3 = 2000Ω にします。 これにより3V印加で1mA流れ、フルスケール位置になります。同様に10Vレンジでは 10V / 1mA = 10000Ωですから、必要なR2の値は R2 = 10000 - (Rx+Rm+R3) = 10000 - (950+50+2000) = 7000Ω
このようにして測定レンジの拡大を行います。

測定レンジを拡大する倍率器





R1、R2、R3、を倍率器という
これにより、各レンジの最大電圧時に
フルスケールになる。

直流電圧測定時の内部抵抗

図6のようにメータには内部抵抗Rmがあり、倍率器を含めるとこれは図7のようにテスタ側を見ると抵抗に見えます。これを「テスタの内部抵抗」と言います。 各レンジでは
30Vレンジ → 30KΩ
10Vレンジ → 10KΩ
3Vレンジ → 3KΩ
1Vレンジ → 1KΩ
どのレンジを見ても「1Vあたり1KΩ」で、これを「1KΩ/V」と表現します。

テスタ内部は抵抗に見える

アナログテスタでは機種によりこの内部抵抗が以下のようにさまざまです。
4KΩ/V
10KΩ/V
20KΩ/V
100KΩ/V
テスタの内部抵抗は大きいほどメータの感度が良く、高性能になります。例えば、図8 a ) のようにR2両端の電圧測定で考えてみます。この場合、E = 10Vで R1 = R2 ですからR2の両端電圧は5Vになるはずです。テスタの内部抵抗が「1KΩ/V」で「10Vレンジ」ですからテスタの内部抵抗Rinは10KΩです。したがって、テスタを接続すると図8 b ) のようになり、R2にRinが並列接続された状態です。R2とRinの並列接続抵抗Rpは3.19KΩになりますから、結局、測定値は4Vです。つまり、この例では誤差が20%になりますから、これは「間違った測定」です。1KΩ/Vの内部抵抗は極端に小さな例ですが、アナログテスタでの電圧測定には内部抵抗の大きさを意識しておく必要があります。

テスタの内部抵抗を考慮する

表1に実際の製品での内部抵抗を示します。



     表1 主な製品での直流電圧測定時の内部抵抗

メーカー 型番 内部抵抗
HIOKI 303010 20KΩ/V
三和電気計器 CP7D 4KΩ/V
三和電気計器 CX506A 50KΩ/V
三和電気計器 SH88TR 20KΩ/V
カスタム CX-270N 20KΩ/V
共立電気計器 MODEL1110 20KΩ/V

図8は内部抵抗が1KΩ/Vと極端に低い例でした。表1のように市販品では20KΩ/Vが多いようですので、この値での計算を図9に示します。
比較する意味で同じ「10Vレンジ」とします。この場合、テスタの内部抵抗は 20KΩ×10 = 200KΩ ですから、この抵抗分がR2に並列接続されますから、その合成抵抗は4.592KΩです。
これにより測定結果は「4.94V」となり、誤差は1.2%です。この誤差であれば問題になりませんが、R1、R2の値が4.7KΩより大きいと誤差が増えますので、常にテスタの内部抵抗と回路の抵抗を意識しておく必要があります。

内部抵抗20KΩ/Vのテスタで測定

直流電流の測定原理

このままでは振り切れる



分流器

直流電流も直流電流計で測定しますが、図10のように1mAの電流計を用いた場合、このままでは1mA以上を流すとメータが振り切れてしまいます。


そこで図11のように「分流器」と呼ばれる抵抗Rsを追加します。例えば1mAの電流計を用いて10mAを測定したい場合、メータ側のRmに1mA、分流器Rsに9mA流れるようにすれば、合計10mAであり、1mAの電流計はフルスケール値になります。これにより、1mAの電流計で10mAを測定することができます。

分流器で測定範囲拡大

図11では1mAを10倍の10mAに拡大したことになり、これを「拡大率n」と言います。拡大率nと各抵抗の関係を①式に示します。

具体的な計算例を Rm = 27Ω とした場合を図12に示します。

10倍の拡大計算例


レンジ切換例

図13に複数のレンジ切換例を示します。

抵抗の測定原理

オームの法則

オームの法則を右に示します。電圧E、電流I、抵抗Rはすべて比例関係です。③式を見ると、電圧と電流が分かれば抵抗が分かるということを意味しています。アナログテスタでの抵抗測定はこの原理を応用して測定しようとする未知抵抗に電流を流すことにより行っています。

電流を流す

図14のようにテスタ内部で電源Eを用い、これをテスタのマイナス端子から未知抵抗へ供給します。これにより電流は
  テスタのマイナス端子 → 未知抵抗Rx → テスタのプラス端子 → 電流計
となり、メータが振れます。

抵抗の測定原理

図15にメータの振れを示します。
図15 a ) のようにテスタのテストリードをショートすると0Ωです。ここで、メータがフルスケールとなるようにRsを設定し、これを「0Ω」とします。
次に図15 b ) のように未知抵抗を接続すると回路全体の抵抗が増加しますから、回路にこの電流値に応じた位置にメータが振れますから、このメータ位置が未知抵抗の値で、あらかじめ抵抗値に応じた目盛を付けておけば未知抵抗を測定することが出来ます。図16に電圧、電流、抵抗の各測定時のメータの振れを示します。

メータの振れの違い メータの振れ

レンジの拡大は分流器を用い、実際のテスタでは「0Ω」の位置調整として「ゼロΩ調整」 のボリューム操作を行います。

交流電圧の測定原理

交流電圧の場合は図17のように交流を直流に変換する「整流器」に通してからメータを振らせます。レンジ拡大は直流電圧時と同様に倍率器を用いています。

整流器で直流に変換

まとめ

●直流電流計が基本
●レンジ拡大は「倍率器」、「分流器」を用いている
●電圧測定時は内部抵抗を意識して用いる




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