はじめに
一般に、日本の家庭にあるコンセントには電力会社から交流(AC)の100Vが供給されています。しかし、ほとんどの電子機器は直流で動作するため、交流100Vを必要な直流電圧(DC)に変換する必要があります。そのための器具がACアダプターです。ACアダプターを使用していない家電用電子機器であっても、その多くは製品内にACアダプターに相当する機能を内蔵しています。
一口にACアダプターと言っても、様々な方式があるので選択に迷います。そこでまず、各種ACアダプターの動作原理と特徴について簡単に説明します。一般的にACアダプターは、以下のように3通りの方式に分けられます。
(1) 非安定化ACアダプター
(2) 安定化ACアダプター
(3) スイッチング方式ACアダプター
非安定化ACアダプター
図1に、非安定化ACアダプターの構成例を示します。このタイプは従来からある方式で、以下のブロックで構成されています。
①トランス
AC100Vを必要とする交流電圧に変換します。
②整流回路
交流を直流に変換します。図1では、整流にダイオードを用いたブリッジ回路を使用しています。
③平滑回路
整流しただけでは脈流となり、一定電圧の直流にはなっていません。そこで、コンデンサを用いて一定電圧の直流に変換します。
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図1 非安定化ACアダプターの構成例
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トランスを用いた非安定化ACアダプターは、整流回路と平滑回路によりAC100Vを直流に変換するという簡単な構造です。そのため、図2のように負荷が変動したり入力の交流電圧が変動すると、それに応じて出力の直流電圧が変動(変化)してしまいます。
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図2 非安定化ACアダプターは変動に弱い |
図3に、出力9V/0.3AのACアダプターの出力特性例を示します。これは、負荷電流を0~300mAまで変化させたときの出力電圧を測定したもので、入力の交流電圧を90V、100V、110Vにしたときのデータです。
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図3 非安定化ACアダプター(9V/0.3A)の出力特性 |
ここで使用したACアダプターは、AC100V、出力200mAのときに定格電圧の9Vになるようです。例えば、このACアダプターを用いて、消費電流が50mAの軽い負荷(機器)に用いた場合、直流電圧はAC100V入力時に11.12Vになります。つまり、図4のように動作電圧が9Vの機器に11.12Vを供給してしまうことになります。
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図4 定格電圧より大きな電圧が供給される |
このように、非安定化ACアダプターは負荷により出力電圧が変化するので、機器が必要とする 消費電流とACアダプターの能力(電流容量)を合わせる必要があります。図4の例では、機器の消費電流が50mAの場合、本来9Vであるべきところ、11.12Vが供給されてしまいます。非安定化ACアダプタはー機器の消費電力に合わせた容量を選択する必要があり、「電流容量は、大は小を兼ねることができない」ということに要注意です。
なぜ出力電圧が変動するか
非安定化ACアダプターは、図5に示す回路図のとおり、AC100Vをトランスを用いて変圧したあと、整流回路、平滑回路を経由してそのまま出力しています。出力電圧値はフィードバックされておらず、出力電圧のコントロールもされていません。よって、AC100Vが変動したり、負荷が変動すれば、それに応じて出力電圧値も変動します。
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図5 負荷による出力電圧の変動 |
AC100Vは50Hz/60Hzの交流電圧ですので、整流後の電圧を脈流をできるだけ安定した直流に変換するためにコンデンサの充放電を利用しています。しかし、負荷が重くなり出力電流が増えると、それだけコンデンサに蓄えられている電荷が早く放電してしまうので、すぐに電圧が落ちてしまいます。これを「リップル」と言います。負荷が大きくなると、図5の①、②、③に示すように波(リップル)が大きくなります。合わせて、トランスの損失やダイオードの順電圧の変動などで、負荷が変化すると出力の電圧値やリップルも変化します。
非安定化ACアダプターの製品例
【 参考例 】
トランスタイプACアダプターの検索リストはここをクリック
安定化ACアダプター
安定化ACアダプターは、図6のように平滑回路の後に電圧安定化回路を追加したものです。出力の直流電圧は、安定化回路の入力電圧(平滑回路出力)よりも低い値になるようにし、AC100Vが変動しても影響を受けないようにしています。また、安定化回路により負荷変動に対しても影響をあまり受けません。
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図6 安定化ACアダプターの構成例 |
図7に、安定化ACアダプター(定格9.5V、1A)の特性を実測した例を示します。このデータはAC100V入力時で、負荷変動に対して良好であることがわかります。なお、AC90V、AC110V時でもAC100V時に対して特性に差がなかったので、データは省略します。また、非安定化ACアダプターは、原理的にリップルが避けられませんが、安定化ACアダプターはリップルが小さくなります。
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図7 安定化ACアダプター(9.5V/1A)の出力特性 |
スイッチング方式ACアダプター
スイッチング方式ACアダプターは、非安定化ACアダプターや安定化ACアダプターとは原理が異なります。構成例を図8に示します。AC100Vを整流し、平滑した直流をスイッチング回路により断続(ON/OFF)させます。この出力を再び整流し、平滑するとON/OFFに応じた平均値(DC)になります。
出力の変動に対しては、それを検出してスイッチング制御(電圧制御)を行って、常に一定となるようにフィードバック(自動制御)を行います。
このように、スイッチング方式は非常に複雑な動作をさせる回路が必要になりますが、この複雑な回路をICにすることで実現しています。
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図8 スイッチング方式ACアダプターの構成例 |
この方式は大きなトランスを用いる必要がないので電源装置が小型になり、交流から直流への変換効率も良いという特徴があります。なお、図8におけるトランスは、数10kHz以上の高い周波数用なので、50Hz/60Hz用に比べて小型で軽量です。
図9に、スイッチング方式ACアダプターの出力特性例を示します。このACアダプターは12V、1Aの仕様ですが、負荷電流が1.5Aまでは出力電圧が安定し、1.55A以上になると保護回路が働きます。
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図9 スイッチング方式ACアダプター(12V/1A)の出力特性 |
スイッチング方式ACアダプターは、原理的に高速(数10kHz~数100KHz)でON/OFFするので、これによるスイッチングノイズが発生します。図10にスイッチングノイズの波形を観測した例を示します。機器によって、例えばAMラジオなどはこのノイズの影響を受ける場合があります。つまり、スイッチング周波数が数10kHz~数100kHzですから、この周波数成分と数10倍までの周波数成分により影響を受ける場合があります。しかし、オーディオ機器などは可聴周波数が数10kHz以下なので、影響はあまり受けません。なお、スイッチングノイズの大きさは電源の機種により異なります。
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図10 スイッチングノイズの波形例 |
スイッチング方式ACアダプターの製品例
【 参考例 】
スイッチング方式ACアダプターの検索リストはここをクリック
まとめ
ACアダプターの特徴を次にまとめますが、それぞれに特徴があるので用いる機器に適した電源を選択することが重要です。
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形式 |
特徴 |
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非安定化ACアダプター |
簡易的な方式なので、入出力の変動に弱い。使用する電源と機器の定格に注意する必要がある。 |
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安定化ACアダプター |
入出力の変動に強く安定していてリップルも少ないが、やや大型。 |
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スイッチング方式ACアダプター |
小型、軽量で効率が良く(熱を持たない)、入出力の変動に強く安定しているが、スイッチングノイズが発生する。
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