低周波発信機の製作

はじめに

簡易的な「オーディオ帯域の低周波信号発振器」を製作しましたので紹介します。低周波発振器は市販品でも安価なものがあり、特に、自作する必要も無いのですが、写真1の市販品を眺めているうちに、「これを自作できないか?」というのが動機です。発振周波数は、例えば、「1KHz」の1波のみというのは比較的簡単なのですが、周波数連続可変は難しいものです。
そこで、「周波数連続可変」にチャレンジというわけです。
写真1の市販品は、かなり、古いもので、現在は販売されていません。(たぶん、1980年代中頃?)1980年代中頃にこの機種を購入しようと販売店に出向いて、横にあった上位機種を勧められてこの機種は購入しなかったものです。最近、中古品でこの機種を見かけて、衝動買いしたものです。

LERDER LAG-27

ウィーンブリッジ発振回路

製作するにあたり、採用する発振回路について解説します。低周波信号の発振回路は「CR発振」が基本です。その中で、基本的な「ウィーンブリッジ発振回路」について解説します。

(1)基本回路ウイーンブリッジはブリッジ回路の中の1つで、図1 a ) の形をしています。このブリッジと増幅回路を組み合わせることにより発振回路を構成することが出来ます。

ウイーンブリッジ発振回路

図1 a ) のようにブリッジのAA-BB間の差分を増幅する形になっていて、増幅器をオペアンプで表現すると図1 b ) になります。さらにこの形を整理すると図1 c ) になります。この形はC1,R1,C2,R2で構成する「周波数選択回路」が「正帰還」になっていて、R3,R4側は「負帰還」回路です。
周波数選択回路は図2のような特性で、バンドパスフィルタ(BPF)です。

バンドパスフィルタ

発振の原理は次のようになります。図3 a ) は入力部がバンドパスフィルタが挿入されていて、アンプ部は増幅度が Av = 1 + ( R3 / R4 )の非反転アンプです。
ここで図3 b ) のようにINとOUTを接続するとオペアンプのプラス端子にOUTの信号が戻されます。したがって、この接続は「正帰還」になり発振します。
発振はバンドパスフィルタで選択される周波数になります。

正帰還の形にする

増幅度が3以上で発振します。ただし、きれいな波形(正弦波が必要な場合はなんらかの方法で振幅を Av = 3 にする必要があります。振幅の安定化をしないで Av > 3 の場合は図4 c ) のように電源電圧付近までスイングし、矩形波に近い波形になります。
例えば、発振を開始する条件は Av ≧ 3 ですから、図5 a ) のようにすれば発振しますが、このままですと発振出力が飽和します。したがって、図5 b ) のように発振後に増幅度を Av = 3 に制御(持続)する必要があります。

発振開始と持続

振幅安定化

振幅安定化の方法はいろいろあるのですが、今回は実用的な方法を紹介します。図5は「接合型FET」を用いた例です。接合型FETは図6のように「ゲート・ソース間電圧」(DC)によってドレイン・ソース間抵抗が変化する素子です。
したがって、図5のように発振出力を検出した信号(DC)をFETのゲートに加えれば、DC電圧の値に応じて、ドレイン・ソース間抵抗が変化します。つまり、R4に相当する部分が可変抵抗になり、発振部の利得を調整することが出来ます。

抵抗R4部分に接合型FETを用いる


接続型FETは「ドレイン・ソース間電圧VDS」が小さい領域ではグラフ1のような特性になります。グラフ1は「VDS-ID特性」で、この傾きの逆数が抵抗になります。(グラフ1では横軸が電圧、縦軸が電流なので、この傾きI/Vの逆数は抵抗です)
なお、接合型FETはドレインとソースの区別は無いのでIDはマイナス方向にも対象に動作します。(右図参照)


振幅検出回路は図7のように発振出力の振幅レベルに応じたDC電圧に変換し、この電圧によりFETのゲートを制御します。(AC/DC変換)

振幅検出回路の機能

AC/DC変換例を図8に示します。

マイナス電圧へ変換

AGC

AGCとはAutomatic Gain Control の略で「自動利得調整」のこと図9のように発振出力レベルが変化しても自動的に回路の利得を一定に保つ働きをするのがAGCです。FETを用いた場合は図10のように動作します。

(電源ON直後)
電源ON直後は発振出力が小さいので、FETへの制御電圧(DC)は小さく、この時のFET抵抗はグラフ3からゲート・ソース間電圧を0Vとすれば約350Ωです。したがって、抵抗R3を固定値の800Ωとすれば回路全体の利得は3より大きいので発振が成長します。

(持続発振)
発振が成長するに従い、発振出力レベルが大きくなり、それによりFETへの制御電圧も大きくなります。制御電圧が大きいほどFETの抵抗値が上がり、これにより発振回路の利得が下がって、 Av = 3 で落ち着き、持続発振になります。発振出力がなんらかの原因で変化(変動)しても、常に、変動分を検出して利得を一定に保ちます。

発振開始から持続


注意
グラフ1、2測定時のFETと異なります。
(ただし、同じ型番の2SK30A-GR)
また、この測定はドレインに交流信号(1KHz)を加えています。

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