オーディオ用部品

オーディオはエレクトロニクスを題材とする趣味の王道です。エレクトロニクスを基本とする他の趣味ではマイコンのプログラミングが相当の重みを持つに至ったのに対し、純粋にハンダ付だけでも楽しむことできる数少ないテーマの一つです。
オーディオ用の部品は抵抗やコンデンサ、トランジスタなどいわゆる電子部品ですが工業用のものとは良し悪しの尺度が異なり選択時に悩むことがあると思います。これは、オーディオが音楽再生という芸術の手段であること、食器のように人間の感覚に近いところで使用されるため単に物理的な機能・性能を満たす以上のことが要求されることなどが理由に挙げられます。
オーディオの作法は人それぞれですが中には茶の湯の道具の高い精神性のような雰囲気を持つ部品もあります。他方で何より先に電子部品であるということも確かで技術の進歩した現在では最低価格の一般部品でも使い方を間違わなければあからさまなノイズやひずみを生じることはありません。
部品の良し悪しは"音が良い/悪い"と言い表されます。しかし、音の良否は主観的なもので一義的には決まりません。低音を大音量でボコボコいわせるのが良いという人もいれば機械式の蓄音機が奏でるノイズだらけのピッチも定まらない音楽に美を感じる人もいます。大事なのは"どのような作品を作りたいか"ということです。

できることから始めましょう

 少し薄らいだ感もありますがオーディオの目標は"究極"という言葉で代表される金色の部品に極太のケーブル、重厚長大の世界というイメージではないでしょうか。しかし、一歩引いてみると一般には特にオーディオ用を強調しない普通のスマートフォンやパソコンで最新のハイレゾ音源などとは程遠い投稿サイトの圧縮ソースなどを楽しむ方々が大勢いることも事実です。これは人間の感性が退化したわけでは無く、普及型のオーディオが進歩したことが理由だと推測します。
高級グレードのセットや部品を揃えるのも一つの方法ですが、もしオーディオに興味を持って間もない方ならば先ずはできるところからできるレベルで挑戦することをお勧めします。
最初はキットや雑誌の製作記事などに従ってその通りのものができるようになるところから始めます。続いて色々と試してみたくなった場合、一般品のコンデンサやOPアンプでも規格値を間違わなければ単に電気的には申し分ない性能を持っていますし、音質的にも自分に合った掘り出し物が見つかる可能性があります。試行錯誤の過程は人の話やマニュアルに従うだけでは楽しむことができませんし、たとえ製作者自身の設計ではないキットの小変更のような作品でも仕上がりは一台しかないオリジナルなものとなります。

一般的な増幅回路の例

はじめに、図1にオペアンプを用いた一般的な増幅回路例(非反転)を示します。

オペアンプによる増幅回路

最近の電子回路はアンプ=OPアンプとなりつつありオーディオも例外ではありません。かつて保守的なファンは否定的でしたがCDの開発以降に飛躍的な進歩を遂げ現在では下手なディスクリートアンプを遥かに凌ぐ高性能な品種も増えています。
OPアンプは抵抗やコンデンサと同様に一つの部品として扱われますが数十個の部品を一つの半導体チップ上に形成した集積回路(IC)で数本の抵抗とコンデンサを外付けすることで実用可能なアンプとなります。つまりアンプの回路と構成部品のほとんどがOPアンプの中に凝縮されています。当然、音質に与える影響度も大きくオーディオの性能を決める最も重要な部品の一つです。

▼C1,C3
直流カット(阻止)が目的で「ACカップリングコンデンサ」と呼ばれます。
このコンデンサと抵抗の組合せで「ハイパス・フィルタ」を形成し、低域での周波数特性が決定されます。

▼C2
位相補償または帯域制限用コンデンサ。 用いるオペアンプにより、発振の恐れがある場合、発振防止用としての位相補償コンデンサです。または帯域制限が必要です。
一般的には、帯域制限の意味合いが強く、C2とR3の組合せで「ローパス・フィルタ」を形成し、広域での周波数特性を決定します。

▼R1,R5
直流電位をGND(接地)にするための抵抗。 R1側はR2との組み合わせ(並列合成)での回路の入力インピーダンスが決定されます。

▼R2
オペアンプを正常に動作させるためのバイアス抵抗

オーディオ的に見た場合の部品

各部品は前述のような役目、目的がありますが オーディオ的に見た場合、「信号が通る部分」が重要です。
例えば、図1におけるACカップリングコンデンサなどは信号が通りますから、このようなコンデンサと、抵抗であればフィードバック部が重要です。

▼オーディオ用コンデンサ コンデンサに交流電圧を印加した場合機械的寸法が変化し、これが「電気的ひずみ」の悪化 につながります。 このような振動に対して特別に考慮したものの一つに「オーディオ用コンデンサ」があります。

コンデンサのひずみ




特定の周波数(電圧)を印加した場合、コンデンサの機械的寸法が変化(逆圧電現象)し、これが「電気的ひずみの悪化」につながる

▼オーディオ用抵抗 例えば、リードの素材に「非磁性体素材」を用い、「磁気ひずみ」などを考慮 した「オーディオ用抵抗」などもあります。

▼オペアンプ オペアンプは「音が変わる」要素の一つです。以下で製品例をご紹介します。

「一点豪華主義」の落とし穴にご注意

 オーディオの信号は川の流れのように入力から出力、プレーヤー→アンプ→スピーカーの順に伝わり逆流することはありません。途中でノイズやひずみなど信号の変質が発生すると信号の伝達過程で自然に回復することがないばかりでなく人工的に復元することもできません。そのため、システムの音質は信号が最も変質する場所=一番悪い部分で決まるとされます。他の部分をいくら良くしても悪い部分がそのままでは改良にはならないため「一点豪華主義はありえない」と断言する人もいます。これは一理ありますが、逆に言えば音質を決める部分が一か所であればそこを改善することで劇的に良くなる可能性もあるということも言えます。
電子回路では"素子感度"という言葉で部品の誤差が注目する特性値に与える影響の大きさを表しますがオーディオの部品が音質に与える影響にも同じようなことが言えます。OPアンプや結合コンデンサは音の変化の大きい箇所で、代表的なグレードアップ対象です。逆にパイロットランプのようなところをいくら高級化しても音質にはほとんど影響しないことは想像できると思います。(しかし、一見音と関係ないところでも変えると音質に影響する場合があるところが面白いところです。)
部品の種類でも影響の大さに差があり先のOPアンプやディスクリートのトランジスタなど信号が直接通過する半導体や真空管、コンデンサ(特に電解コンデンサ)は音の変化の大きな部品でこれらは同等品と呼ばれるものの間でも違いが出ることが良くあります。抵抗は音の差の出にくい部品ですが金属皮膜型とカーボン型、巻き線型など違う種類では差があると言う人も多いようです。
以上のようにシステムの一部や使用部品にあきらかなボトルネックがある場合はそこを集中的に改善することが有効ですが、一般的にはシステムの音質はすべての要素の合計で決まるので一部を飛び抜けて高級化するよりも各部を少しずつグレードアップした方が効果は大きいかも知れません。

電子部品にはそこにある理由がある

 "抵抗"でも"コンデンサ"でも、電子部品には"10kΩ"、"10μF"といった定数がありそれらが組になって特定の部品を表します。("10kΩの抵抗"というように。)さらに一つの部品は複数の特性値(抵抗のW数やコンデンサの耐圧など)を持っており部品選定時に必要な情報(仕様)になります。詳しい説明は割愛しますが"形が同じだから…"と言う理由で部品を選び悲劇を招かぬよう注意して下さい。
もっともわかり難いのはOPアンプの交換です。例えばOPA2134とNJM4580のように品種が異なれば全く違う部品なのですが単純な置き換えが当たり前に行われています。これは電子部品では割と異例の扱いでOPアンプという部品がそのように設計されているため可能になります。抵抗やコンデンサの定数はネジの呼び径のようなものでM3のボルトとM4のナットは間違ってもかみ合わないように間違った定数のものは使用できません。それに対しOPアンプの交換は服を着替えるのに似ていて大体の"服のサイズ"(=製品仕様)が合えば一応は装着可能です。しかし、本来は全体の回路設計の一部としてその品種が選定されているので単純に置き換えた場合にはトラブルの危険性があります。皆がやるので簡単なテーマに見えますが理解が追いつくまでは手を付けない方が無難です。(ベテランの多くは痛い目を見ながら成長してきたはずですが、ここではお勧めできません。)

【ご注意】市販品の改造はやめましょう

グレードアップの方法で思いつくのは市販セットの改造ですが絶対に止めて下さい。現在の回路基板は極小部品の表面実装がほとんどで作業が困難なだけでなく改造が原因で不具合が生じた場合にメーカーでも修理不能となる危険性が大です。製品を捨てる覚悟があれば別ですがそうでなければオリジナルのまま楽しむのが無難です。

【ご注意】それでも市販品をいじりたい方に…

 市販品の改造はタブーと分かっていてもセットの自作はハードルが高いという方、時間と手間を掛けずに肝心な部分だけをちょっといじってみたいという方にはクラフト・オーディオのキット利用がお勧めです。マルツではLinkman Audio LV-2.0モジュール・シリーズを中心とした各種キットを取り揃えております。

Linkman Audio

LinkmanのLV-2.0オーディオ・モジュール各種をご紹介します。
また、回路は得意だがシャーシーの工作が苦手と言う方に、マルツでは加工サービスも承っております。

ケース加工・制作

オリジナルのシャーシーまでは必要ないとお考え方はLVシリーズなどキットのシャーシーと外装部品のみの販売も致しておりますので流用もご検討ください。LVシリーズの基板は47mm×72mmのサンハヤトICB-88など「C基板」と呼ばれるユニバーサル基板とサイズが同じなので穴あけ加工をすることなくこれらの基板を取り付けることができます。

商品選択例

図3に選択例を示します。この型番にこだわる必要はありません。
個人差がありますので、好みの音作りを楽しんでみましょう。

部品選択例

オーディオ用OPアンプ

OPアンプの楽しみ方の一つとして色々な品種を差し替えての比較試聴があります。しかし、セット(装置、機械)としてのアンプ全体はOPアンプに全く独立した他の部分を加えて出来上がるわけでは無くOPアンプを回路の一部として構成し周囲の定数をOPアンプが性能を発揮できるように設計してあります。そのため単純な差し替えでは周辺の設定がOPアンプに合わず動作不良となる恐れがあります。"理想OPアンプ"という概念があるようにOPアンプ自体は極力どのような応用回路にも対応できるよう配慮がなされていますが高速・広帯域OPアンプなど特別な性能を狙ったものは何でも対応できる汎用性よりも特長となる特性が優先される場合があります。

▼主なオーディオ用オペアンプ

【NJM2068D】2回路入り低雑音オペアンプ 新日本無線(ロゴ:JRC)の開発したオーディオ向けの低雑音OPアンプ。RC4558を開発した親会社(当時)のレイセオンから生産施設とライセンスを移管し事実上NJM4558(レイセオン型名RC4558)のオリジナルメーカーとなったJRCはこれをベースにNJM4559、NJM4560、NJM2041、NJM2068という一連の改良品を開発しました。NJM2068は初期開発フェーズの最終型です。後発の次世代製品に音質改良型のNJM4580が存在するにもかかわらずNJM2068もノイズなどがスペック上で上回るためか人気は衰えません。
【LT1115CN8#PBF】低ノイズ低歪み オーディオ用オペアンプ 最高クラスのローノイズ特性を持つオーディオ用OPアンプです。類似の製品にLT1028がありますがメーカーの表記ではLT1028がPrecision High Speed Op Ampsなのに対しLT1115はAudio Op Ampとなっています。特性面で入力オフセット電圧Vosや電圧利得Avなど直流に関する項目についてLT1028の方が上回っておりLT1115は用途をオーディオ寄りに絞ることで価格を抑えた製品と言えそうです。データーシートには説明が無いようですがグラフから見る限りLT1028同様にボルテージフォロアに近い低いゲインでの使用は不可で非反転で2倍以上で使わないと発振の恐れがあります。
【AD712KNZ】オペアンプ デュアル 高精度 J-FET入力のOPアンプです。メーカーの説明ではLF412やTL082の上位互換とあります。J-FET入力型OPアンプは入力電流が小さくスルーレートを高くしやすいなど多くの利点がありますが入力オフセット電圧が大きいなど精度の点で弱点があります。AD712は多くの高性能OPアンプを生産するアナログデバイセスがお得意のレーザートリミング技術を駆使し入力オフセット電圧を調整するなど特性を改善しつつローコストを狙った製品です。
【OP275GPZ】オペアンプ デュアル オーディオ用 バトラーアンプという特殊な入力回路を採用したオーディオ用OPアンプです。高性能OPアンプを得意とするPMI製品の型番ですが現在はアナログデバイセスの1ブランドです。バトラーアンプはバイポーラトランジスタとJ-FETの差動回路をパラレルに使い、ノイズ特性やオフセットの優れるバイポーラと高スルーレートの実現が容易なJ-FETの双方の特長を両立した回路形式です。
【NJM2114】オペアンプ プロオーディオ用OPアンプNJM5532の音質を改良したオーディオ用OPアンプです。NJM4558のオリジナルメーカー新日本無線は4558派生製品の開発と同時期にNE5532(シグネティクス、現NXPに吸収)のセカンドソースNJM5532も開発しました。後にNJM4558系を見直しNJM4580を開発した際に新たな音質改善技術が採用されましたがこの技術をNJM5532に応用したものがNJM2114です。NJM4558はPNPトランジスタ入力の2段増幅なのに対しNJM5532/NJM2114はNPN入力の3段増幅で等価回路は全く異なります。NJM5532/NJM2114はNPN入力であるために入力保護ダイオードを内蔵しており差動入力電圧の最大定格がNJM4558系に比べて小さいので置き換えの際は注意を要します。
【LT1128ACN8#PBF】超低ノイズ・高精度・高速オペアンプ 最高クラスのローノイズ特性を持つオーディオ用OPアンプです。LT1028の双子の兄弟でボルテージフォロアを含む低いゲイン設定での使用が可能です。(LT1028はボルテージフォロアに近い低いゲインでの使用は不可で非反転で2倍以上で使わないと発振の恐れがあります。)利得帯域幅積がLT1028が50MHzに対しLT1128は13MHzなど高いゲインで使用する場合はLT1028の方が高性能です。負荷が容量性になる場合など負帰還の安定性を重視する場合にはLT1128が有利です。
【LT1364CS8#PBF(L)】オペアンプ スルーレート=1000V/μsの2回路入り高速オペアンプです。また、'C-Load(TM)'という技術の応用でいかなる容量性負荷もドライブ可能とあります。これにより従来より発振しにくくなっています。(Drives All Capacitive Loads)
色々と特別な性能を備えていますが、その分、実装などには十分注意を払う必要があります。データーシートを熟読してお使いください。最近ではオーディオ用に使われることもあるようですが本来はビデオやRF向きの製品です。
【RC4558D】オペアンプ 定番OPアンプ4558のセカンドソース(TI製)です。型番はオリジナル開発メーカーのレイセオン製と同じRC4558なのでご注意ください。出力の連続時間短絡保護など新しい性能が追加になっています。
【AD797ANZ】超低歪ミオペアンプ 1回路入 最高クラスのローノイズ特性を持つ高性能OPアンプです。超音波機器や計測器など工業用の高性能機器が本来の用途ですがOPA627やLT1028など同時期に開発された高性能OPアンプ共々オーディオ用に人気があります。ノイズのスペックは数値上LT1028と互角ですが等価回路は全く異なり双方とも個性が際立っています。AD797は内部位相補償の打ち消し端子を持ち高度な使い方が可能です。
【NJM4580D】オーディオ用2回路入りオペアンプ 新日本無線(ロゴ:JRC、日本無線は別会社)の開発した純然たるオーディオ用OPアンプ。RC4558を開発したレイセオンは当時JRCの親会社で、そこから生産施設一切ととライセンスを移管し事実上NJM4558のオリジナルメーカーとなったJRCはこれをベースにNJM4559、NJM4560、NJM2041、NJM2068という一連の改良品を開発しました。NJM4580はそれらの音質を見直し全体をオーディオ用に改良した製品です。当時プロオーディオ専用の高級品だったNE5532の性能をより簡易な4558のアーキテクチャーで狙った自信作で5nV/√Hzの入力換算雑音電圧と低ひずみ、600Ωのライン駆動に対応した高出力電流が特徴です。NJM2068まではローノイズ化が優先ポイントでしたがNJM4580では総合的な音質向上のためにノイズ特性が多少犠牲になっています。4558系のOPアンプは等価回路上ではどれも同じに見えますがプロセス(チップの構造と材質)などでスペックにはない音質対策を施しているそうで他社のまねできない人気の秘密のようです。NJM4580は開発時期が新しい分、4558系としても洗練されておりNJM4558に次ぐ非オーディオの汎用OPアンプとしての需要も多いようです。
【LME49721MA】ハイファイオーディオオペアンプ +5V(単電源)以下での低電圧動作に重点を置いた新世代のオーディオ向けOPアンプです。
動作電源電圧を+2.2~5.5Vと従来型のオーディオ用OPアンプが不得意だった範囲に定めるとと同時にレールtoレール入出力として低電圧動作に於ける電圧条件の制約をクリアしています。
ノイズやSRなどその他の特性はオーディオ用としては一見月並みですが本格的な低電圧対応品としては今までに無かった性能です。
【LT1028ACN8#PBF】超低ノイズ・高精度・高速オペアンプ LT1028はオーディオ帯域で最高クラスのローノイズ特性を持つOPアンプとして知られています。
LT1028Aは高精度選別品でノイズの他入力オフセット電圧や電圧利得など精度に関する項目が厳しく規定されています。データーシート上は負帰還後の利得2倍以上が推奨条件です。ボルテージフォロア(利得1倍)での使用はLT1128が推奨されています。
【LT1364CN8#PBF】デュアル高速オペアンプ スルーレート=1000V/μsの2回路入り高速オペアンプです。
また、'C-Load(TM)'という技術の応用でいかなる容量性負荷もドライブ可能とあります。
これにより従来より発振しにくくなっています。(Drives All Capacitive Loads)
色々と特別な性能を備えていますが、その分、実装などには十分注意を払う必要があります。
データーシートを熟読してお使いください。最近ではオーディオ用に使われることもあるようですが本来はビデオやRF向きの製品です。
【LME49720NANOPB】Dual High Performance High Fidelity Audio Operational Amplifier 2回路入り高性能オーディオ用OPアンプ
現在はTIに統合されたナショナルセミコンダクターが開発した新世代のオーディオ用OPアンプです。オーディオで重視される各スペック値が高級オーディオ用として標準的なNE5532型などより一回り向上しています。工業用の超高性能品などと比較すれば性能の割に安価でコストパフォーマンスの高い商品です。
【OPA2134PA】High Performance AUDIO OPERATIONAL AMPLIFIERS 旧バーブラウン(現TIに吸収)が開発した高性能オーディオ用OPアンプ。先行する類似の製品にOPA2604があり現在でも双方が使われています。OPA2134を工業的に見た場合はかなり高性能ですが、オーディオ用として特別に評価の高い他のOPアンプと比べると中庸な製品と位置付けられます。その分、比較的低価格なことから高性能オーディオ用としてはベーシックなOPアンプとしてよく使われます。
【NE5532AP】デュアルローノイズオペアンプ プロオーディオ用OPアンプICの代表NE5532のセカンドソース品です。 低周波用のローノイズOPアンプとしてコストの割りに性能が高くオーディオ以外にも広く使われています。同型のセカンドソースは各社製造しており工業的には大同小異です。(仕様上は動作温度範囲やノイズの上限の規定など若干の違いはあります。) オーディオ用としてはそれぞれ音質が異なると言われ評価も様々です。
【OPA2365AID】低ノイズ単電源Rail-to-Railオペアンプ  
【AD8620ARZ】オペアンプ デュアル 高精度 低入力バイアス電流  
【AD8656ARZ】オペアンプ デュアル 低ノイズ 高精度CMOS  
【OPA2140AID】デュアルオペアンプ 8-Pin SOIC  
【LT1028CS8#PBF(L)】超低ノイズ・高精度・高速オペアンプ  
【LT1028CN8#PBF】超低ノイズ・高精度・高速オペアンプ LT1028はオーディオ帯域で最高クラスのローノイズ特性を持つOPアンプとして知られています。
LT1028Aは高精度選別品でノイズの他入力オフセット電圧や電圧利得など精度に関する項目が厳しく規定されています。データーシート上は負帰還後の利得2倍以上が推奨条件です。ボルテージフォロア(利得1倍)での使用はLT1128が推奨されています。
【LT1128CN8#PBF】超低ノイズ・高精度・高速オペアンプ  
【OP42FJ】オペアンプ 高速 高速セトリング  
【LME49710NANOPB】High Performance High Fidelity Audio Operational Amplifier  

以下に差し替えを行う時に注意すべき特性を記します。
【ご注意】「オーディオ用」として差し替えを楽しむ場合に陥りやすい点を抜粋して説明します。OPアンプの一般論としてはさらに多くの注意点がありますが割愛させていただきます。専門書を参照してください。

1.回路数、ピン配置

8ピンのOPアンプには1回路入りと2回路入りがあります。同じ回路数でもピン配置が違うものもあります。あらかじめデーターシートで確認しておきます。

2.電源電圧

以前のOPアンプは電源電圧±15Vが標準でしたが現在では様々です。耐圧の低い品種もあります。新しく使う予定のOPアンプの電源電圧範囲(上限と下限)をデーターシートで調べ交換対象回路の電源電圧がその範囲を超える場合は使用を中止します。

3.入力オフセット電圧

直流電圧のズレを表す特性値でこの大小で無信号時の出力端子の直流電圧が変わります。結合コンデンサを介して出力を取り出している場合は問題になることが少ないですが直結の場合は後につながるアンプやスピーカーを壊す恐れがあります。直結の場合は無信号時の出力電圧がほぼ0VのはずなのでOPアンプの交換前後の出力電圧を電圧計で測って0Vからの偏差が同等以下であることを確認します。結合コンデンサを使用している場合はOPアンプの出力端子で電圧を測り交換前後で大きな違いが無いことを確認します。なお、テスターのプローブをOPアンプの端子に直に当てると発振の恐れがあります。気になる場合は100Ω程度の抵抗を直列に介して測ります。

4.出力電流

ヘッドフォンアンプにOPアンプが使われることがありますが出力電流が大きいものでないとヘッドフォンを直接駆動することはできません。OPA2134やNJM4580など600Ωのラインドライブに対応したものは大体実用になりますがNJM4558やTL072などは能力不足です。(ディスクリートのトランジスタやBUF634などバッファーアンプを介して出力される場合は問題ありません。)  出力電流の増強やその他の理由でOPアンプを直接並列にすることはできません。DACのICなどでは複数のICを重ねて同じピン同士を半田付けすることが行われますがOPアンプでそれをやると動作不良となり最悪の場合は破壊に至ります。

5.入力形式(J-FETかバイポーラか)

J-FET入力のOPアンプは入力インピーダンスが高くスルーレートを大きくしやすい(高速である)などの利点があります。オーディオ用としての入力インピーダンスはバイポーラ入力でもそれなりに高いのですが(>1MΩ)入力バイアス電流が大きいのが難点です。J-FET入力型は原理的にごくわずかな入力電流しか流れません。これはわずかな電流も嫌う箇所に有用です。例えば可変抵抗器(ボリューム)は摺動子(スライダー)に電流を流すと摺動ノイズ(ガリ)の原因となりはなはだしい場合は寿命を縮めてしまいます。ボリュームの直後にJ-FET入力型のOPアンプを使ってある場合、不用意にバイポーラ入力型のOPアンプに交換すると"ガリオーム"となる恐れがあります。

6.発振の回避(負帰還の安定性)

発振トラブルに関する理屈はここで説明するには難解過ぎるので省略します。トラブルを避けるためGBW(利得帯域幅積)やft(トランジション周波数)など利得の周波数特性が大幅に違うもの同士の交換は控えるようにした方が無難です。ボルテージフォロアや数倍の比較的小さな利得のアンプが良く使われますがLT1028やOPA637などハイゲイン向けの品種では設定できる最低利得を1倍(ボルテージフォロア)まで下げられないものもあるので注意します。これら高利得向けのOPアンプはスルーレートやGBWが大きいものが多く高性能に見えますが、数値につられてうっかり使ってしまわないようにしましょう。(例えばLT1028とLT1128では数値上は前者が高性能に見えますがLT1128の特性は低利得向けに内部を調整した結果です。)
GBWまたはftが数十MHzを超える品種は広帯域OPアンプに属しプリントパターンやバイパスコンデンサの種類などに高周波回路の配慮が必要になる場合があります。低周波向きのフィルムコンデンサーなどでは数MHz以下に自己共振周波数があるものも多くそれ以上ではコンデンサとして機能しません。バイパスが上手くいかず場合によっては発振など異常動作の危険性があります。高周波に対応できるセラミックコンデンサーは音質的に好まれないこともあり判断に迷うところです。
以上はいずれもOPアンプ自身の持つ利得(オープンループゲイン)が高いことが原因の一つですがまれな事例としてフォノイコライザーアンプなどハイゲインアンプではOPアンプのオープンループゲインが不足気味になることもあります。

7.雑音電圧と雑音電流

OPアンプの出力ではノイズは雑音電圧で評価されます。OPアンプの特性上はすべてのノイズは入力端子で発生するとみなし入力換算雑音電圧・入力換算雑音電流を規定しています。入力換算雑音電圧が利得倍(10倍のアンプなら入力換算雑音電圧×10)されて出力に現れる計算です。ところが入力端子に直列に入るインピーダンスがあると入力換算雑音電流とそのインピーダンスの積が入力換算雑音電圧に加算されてしまいます。また入力端子に抵抗が直列に入る場合、抵抗の発生する雑音(熱雑音)も加算されます。 簡単にまとめると、ローノイズOPアンプの特性を生かすには前段につながる回路と帰還回路のインピーダンスを小さくする必要があります。バイポーラ入力のOPアンプは一般に入力換算雑音電圧が小さくなるほど入力換算雑音電流は大きくなります。ベース電流の必要なバイポーラトランジスタに対しJ-FET入力では入力電流そのものがほとんど流れず入力換算雑音電流も小さくなります。ボリュームの直後など比較的高いインピーダンスが入力に直列になる場合は入力換算雑音電圧が小さなバイポーラ入力型OPアンプよりも入力換算雑音電圧の大きなJ-FET入力型OPアンプの方が結果的に低雑音となる場合もあります。
システムのローノイズ化はOPアンプをローノイズにするだけでは達成できませんが現在の半導体アンプでは通常の使用条件で気になるようなノイズを発生することはほとんどありません。常にノイズが聞こえる場合は不良か故障でなければ設計に問題があるかも知れません。

8.電流帰還型OPアンプ

電流帰還型OPアンプは比較的新しく登場した回路形式のOPアンプで発祥はAD812などのような広帯域OPアンプです。4558や5532など従来型のOPアンプが電圧帰還型でマイナスの入力端子とプラスの入力端子の間の電圧がゼロになるように動くのに対し電流帰還型はマイナスの入力端子に流れ込む電流がゼロになるように動きます。回路図上では同じに見えますが電圧帰還型と電流帰還型の入れ替えは通常はそのままでは不可能と考えた方が無難です。(回路を読んで検討してください。)電流帰還型であることはデーターシートをよく読まなければわからないこともあるので注意してください。(商品ページに記載するように努力していますが品数が多くなかなか手も気も回りません。至らぬ点はご容赦下さい。)
オーディオではOPアンプのスルーレートは大きくなければならないという説が古くからありますが電流帰還型のOPアンプはスルーレートが桁違いに大きいものがほとんどなので注目されることも多いようです。オーディオ用としても人気の高いLT1364は電圧帰還型ですが内部の等価回路は電流帰還型OPアンプのマイナス入力に電圧→電流変換回路を追加した構成で1000V/μsの高スルーレートを実現しています。

9.ソケットの使用について

差し替え試聴にはICソケットが不可欠です。しかし、一般に使われているICソケットは基板にICを取り付けるための実装用ソケットで頻繁な抜き差しには対応していません。何度か差し替えると軽い力で差し込めるようになりますが特に意識して押さなくても自然に挿し込めるような状態ではすでに接点の圧力が不足している恐れがあります。対策として丸ピンのソケットを二段にしてICの交換時は上側(ICに近い側)で差し替えそこの接点がいかれてきたら上側のソケットそのものを交換するという方法があります。ICソケットやコネクター、機械式スイッチなどの接点は音に悪影響を与えるので極力排除した方が良いとされます。OPアンプのソケットも比較試聴の専用機と割り切って使うか、実用機であれば製作時のOPアンプ選定用に臨時的に使いできれば品種の決定後に新品と交換するかソケットを排して直接半田付けした方が良いでしょう。
OPアンプの自己発熱は動作に影響を与えますが放熱の状態はピンの状態で変わりソケットを使うと放熱が阻害されます。

10.ICパワーアンプLM386

LM386は定番の1回路入り小型パワーアンプICです。回路記号は±入力端子に三角のシンボル、実物の外観も8ピンDIPでOPアンプに似ていますが固定ゲインのパワーアンプ専用ICでOPアンプではありません。ヘッドフォンアンプに使われる例もよく見かけますがOPアンプと直接の互換性はありません。

表1 主なオーディオ用パーツの製品例

製品例
容量1μF以下の場合 フィルム系コンデンサ フィルム系コンデンサ
容量1μF以上 ニチコン 無極性 ESシリーズ アルミ電解コンデンサESシリーズ
有極性 FWシリーズ アルミ電解コンデンサFWシリーズ
KWシリーズ アルミ電解コンデンサKWシリーズ
FGシリーズ アルミ電解コンデンサFGシリーズ
KZシリーズ アルミ電解コンデンサKZシリーズ

▼コンデンサ(C2)

ポリプロピレン アムトランス AMCHシリーズ ポリプロピレン製品一覧
メタライズドフィルム Linkman   メタライズドフィルム製品一覧

▼オーディオ用抵抗

最高級オーディオ用カーボン抵抗 アムトランス オーディオ用カーボン抵抗一覧

▼オペアンプ 2ch,DIP8

型番 メーカー コメント
NJM4558D 新日本無線 オーディオ用の標準
NJM4556AD 新日本無線 高出力(Io=73mA)、ヘッドフォン直接駆動可
NJM4560D 新日本無線 NJM4558Dの出力ドライブ能力強化と広帯域化
NJM4580D 新日本無線 オーディオ用としての音質向上と±2V動作可
NJM5532D 新日本無線 低雑音
NJM2041D 新日本無線 NJM4558Dの広帯域化と低雑音化
NJM2068D 新日本無線 NJM2041Dの広帯域版

その他の部品

▼音量ボリューム

図4に音量ボリュームを追加した例を示します
図3における固定抵抗R1をボリュームに交換しています。



必要な条件
音量ボリュームは「Aカーブ」が望ましく、抵抗値は数KΩ~100KΩが適当 な範囲で、この値とR2との並列合成値が回路の入力インピーダンスとなります。
2連ボリュームで抵抗が10KΩの主な型番を表2に示します。

表2 10KΩ、2連、Aカーブの例

取り付け 型番 備考
パネル取り付け  R1610G-QB1-A103 シャフト長15mm
パネル取り付け  R1610G-RB1-A103 シャフト長20mm
基板取り付け  RD925G-QA1-A103  
基板取り付け  RD925S-QA1-A103 SW付き

金属ケースに実装する場合、ボリュームのボディは必ずケースに接触(導通)させます。 ケース接触はパネル取り付けタイプの場合、特別に考慮することはありませんが、基板取り付けタイプは実装に工夫が必要です。
ただし、オーディオ的には配線(信号及びGNDライン)が短いほうが良く、基板取り付けタイプの部品は線材による配線の必要がないのでこの点については有利です。

▼コネクタ類

オペアンプ実装用のICソケットは「丸ピンソケット」が基本です。
板ばねソケットは安価ですが、やはり信頼性の点から丸ピンソケットをお勧めします。

コネクタ類

基板は金属ケースに収納すると電気的特性が安定し、しっかりとした音作りの基本となります。 また、再現性がいいのでデバイス交換、配線変更などの音質評価時に有効な手段です。
信号の入出力コネクタはRCAピンジャックまたはφ3.5ステレオジャックが基本となりますが、ケース収納時には「絶縁型」をお勧めします。
絶縁型の場合、余計なGNDループを創らないので扱いやすく、GNDラインの配線が単純になり特性向上につながります。

コネクタ、ボリュームの配線例

表3~表5に主な部品を示します。

表3 主なφ3.5ステレオジャック

型番 メーカー 内容
 MJ073H マル信無線 パネル取り付け、絶縁
 MX387GL マル信無線 基板取り付け

MJ073Hはパネル取り付けタイプの絶縁型です。 MJ387GLは基板取り付けタイプの小型で、余計な線材による配線が不要で、配線長を短くすることができます。


型番 メーカー 内容
 MR-699シロ マル信無線 パネル取り付け、絶縁、白
 MR-699アカ マル信無線 パネル取り付け、絶縁、赤
 MR699Gシロ マル信無線 パネル取り付け、絶縁、白、金メッキ
 MR699Gアカ マル信無線 パネル取り付け、絶縁、赤、金メッキ
※写真はMR699Gシロです

すべてパネル取り付けタイプの絶縁型でMR699は金メッキです。

表5 その他の部品

型番 メーカー 内容
 MJ14ROHS マル信無線 DCジャック2.1mm
 21218NE Linkman ICソケット 丸ピン 8ピン

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